ちゅうカラぶろぐ


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昨日開催のダービーはご覧になりましたでしょうか。
 私が応援していた内の1頭がスタート直後についでに騎手まで振り落とし悠々と走って行ったのには笑ってしまいましたが、そんなアクシデントすら吹き飛ぶほどの事態が。2番人気だったスキルヴィングがレース中に急性心不全を起こし、ゴール後に倒れ込んでそのまま逝去してしまったのです。倒れ方が只事ではなかったためせめて無事であってくれと思いましたが運命とは時に残酷なもの。競走馬の脆さ、儚さを観衆に刻みつけるレースとなりました。

 こんばんは、小島@監督です。
 それでもレースは続いていく。全てのレースで人馬ともに無事に帰還してほしいものです。

 さて、今回の映画は「帰れない山」です。

 1984年、イタリア。トリノでエンジニアを務めるジョヴァンニ(フィリッポ・ティーミ)の息子ピエトロ(少年期アンドレア・パルマ、成年ルカ・マリネッリ)は両親に連れられ夏の休暇をモンテ・ローザ山麓のグラーノ村で過ごすことになった。グラーノ村はかつて賑わっていたものの今は寂れてしまい十数人しか住民がいない。そこでピエトロは牛飼いの少年ブルーノ(少年期フランチェスコ・パロンペッリ、成年アレッサンドロ・ボルギ)と出会う。都会育ちで繊細なピエトロと山育ちのブルーノは対照的な性格だが山で過ごす日々の中で親交を深めていく。
 しかし、思わぬ形で2人は引き裂かれる。そのことが大きな傷となりやがて思春期を迎えたピエトロはジョヴァンニに反目するようになりグラーノ村からも遠ざかっていく。だが一度は離れたグラーノ村に、ピエトロはもう一度導かれる。そこでブルーノとの15年ぶりの再会が待っているのだった。

 自分のルーツとなる土地、帰るべき場所、そこへ「帰れない」とはどういうことか。
 山岳映画の系譜に新たな傑作がまた一つ。敢えてスタンダードサイズに切り詰められた画面が映し出すのは、峻険で荘厳な北イタリアの山並みと普遍的な人間模様。世界各国で高い評価を得たパオロ・コニェッティの小説を原作として製作されたこの映画は、沁み入るような深い余韻とともに「生きる」ことの意味の根源を問うドラマです。

 映画は、数十年という時間を通して描かれます。その語り口は一見地味とすら思えるほどに細やか。けれどそれらが連綿と連なることで物語はどこまでも壮大になっていきます。人生には特別なことと特別でないことがいくつにも折り重なり続くもの。その中でつまるところ「立ち止まる」か「動く」かの選択を迫られながら進んでいく。そうして生きる人間を見下ろすように山がそびえている。その対比が全編を貫き、気付けば引き込まれていました。147分と結構な長尺なのにそれも気になりません。

 子どもの頃から対照的なピエトロとブルーノは大人になっても対照的な生き方を選びます。どちらもがある意味で満ち足りていてある意味では欠乏しており、片方だけが幸せではない。恐らくどちらの生き方にも共鳴できる部分や憧憬を抱く部分があるはずです。そして2人の友情は各々の境遇はどうあれ絶対的に確かなものですが、そうであるが故に最後にはその山へ「帰れなく」なります。それもまた「選択」の果てのことであり、何か強烈なサスペンスがそこに待ってるわけではありませんが、人が生きることの難しさと尊さを観るものに再確認させます。
 きっと誰しもがちょっぴりだけ自分の人生と重ねて観てしまう、そんな映画。決して華々しい作品ではないけれど、人生のどこかで立ち寄って欲しい一本というのはあるもの。迷い道の中、力強い激励や叱咤では眩し過ぎるときに、この映画は静かに寄り添ってくれることでしょう。

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