ちゅうカラぶろぐ


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「アイドルマスターミリオンライブ!」先行上映の第3幕を観てきました。それもついさっき。
 まだちょっと余韻でふわふわしています。基本がTVフォーマットで作られているものを敢えてスクリーンで観せる、それを観ることの意義を雄弁に語りかける映像と音響の迫力に酔いしれました。難産の末のアニメ化となったタイトルですが、10周年というメモリアルイヤーに相応しい作品になったと断言して良いでしょう。

 こんばんは、小島@監督です。
 もちろん本放送開始の暁には普通に自宅でも観ますがね!

 さて先日、名古屋能楽堂まで「能狂言鬼滅の刃」を観てきました。人生で初めての能楽鑑賞です。
 能楽師観世流シテ方で人間国宝の大槻文蔵、和泉流狂言方の野村萬斎、囃子方葛野流亀井広忠という第一人者たちがチームを組み、今や説明の必要も無くなった吾峠呼世晴の傑作「鬼滅の刃」を新作能として仕立てました。昨年東京と京都で初演され大反響を呼んだ舞台が今回名古屋初上演です。漫画を原作とした能楽の演目は極めて異例で、美内すずえ原作「ガラスの仮面」の劇中劇「紅天女」以来だとか。

 物語は原作1巻の狭霧山のエピソードと5巻の那田蜘蛛山編を中心とした二幕構成。能楽でいう「五番立」に沿った形で進行していきます。
 五番立とは即ち、
・翁(おきな。五番立は必ず「翁」「千歳」「三番艘」という祝祭儀礼から始まる。「鬼滅の刃」ではこれに代わり竈門炭治郎の父・炭十郎が炭治郎へヒノカミ神楽を相伝する姿が描かれる。)
・脇能(わきのう。神々や精霊が登場し世の安寧を祈り社寺の縁起を語る。「高砂」「養老」「竹生島」など。ここでは炭治郎は錆兎と真菰との特訓を経て鬼狩りの力を得るまでが描かれる。)
・修羅能(しゅらのう。主に「平家物語」の登場人物が現れ、自身の最期や死後の苦しみを語る。「敦盛」「清経」「八島」など。ここでは藤襲山で炭治郎が鬼殺隊の最終選別に挑む。)
・鬘能(かづらのう。「源氏物語」の登場人物など女性が主役となり恋の物語とその苦悩が優雅な舞と謡の中で展開する。「松風」「羽衣」「西行桜」など。ここでは眠り続ける竈門禰豆子が夢の中で遠き日を追想する。ここまでが前場。)
・雑能(ざつのう。他に分類しにくい演目は皆ここに振り分けられる。「隅田川」「道成寺」「安宅」など。休憩を挟みここから後場。任務中の負傷で療養していた炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助が復帰して那田蜘蛛山へ向かうまでが前段の狂言から地続きで語られる。)
・切能(きりのう。鬼や天狗などの異能が登場する。「鵺」「土蜘蛛」「殺生石」など。那田蜘蛛山で炭治郎達は下弦の伍・累との戦いに挑む。)
という流れで展開し、各番の合間にコメディ色の強い狂言が入るほか、前場と後場の合間には「アイ(間)狂言」が入ります。アイ狂言では時を平安時代に遡り不老不死の身体を得るも陽光の下に出られなくなった鬼舞辻無惨が生への渇望と死への恐怖に押されながら千年の彷徨に出る様が語られます。
 シテ方の大槻文蔵氏は下弦の伍・累を、狂言方の野村萬斎氏は鬼舞辻無惨のほか炭治郎の父・竈門炭十郎、鱗滝左近次、更に鎹烏まで4役を演じています。

 鑑賞して思うのはこちらの想像を遥かに超える原作と能楽との相性の良さ。
 蜘蛛の力を持つ累には「土蜘蛛」が、水の呼吸の表現には「船弁慶」からの引用が見受けられるだけでなく、炭治郎を始めとして主要人物の多くは顔つきよりも着物の柄でキャラクターを印象付けていることも客席からの視認性の高さに直結していますし、鱗滝だったり鋼鐡塚だったり能面を付けたキャラクターが多数登場することや、ヒノカミ神楽という神楽舞が物語の重要なピースだったりする、そういう様々な要素ももちろんですがそれ以上に根幹のところで強烈な親和性を見せます。能舞台で「橋がかり」と呼ばれる長い通路は、ただの通路ではなく常世と現世を結ぶ道でもあります。その道を通り本舞台に現れる鬼達は炭治郎達に討たれ、その道を戻ることで黄泉の国へと還っていきます。常世へ帰る鬼の魂、それに思いを馳せられる炭治郎の舞と謡が鎮めるのです。
 恐らく古典と比べたら演出も現代的であり盛っている方だとは思いますが、それでもアニメや2.5次元とは根本が違う抽象画や水墨画のような引き算の美が観る者のイマジネーションに作用して力強い印象を刻みつけてくれます。何より能舞台で舞われるヒノカミ神楽の姿はそれだけで強烈な説得力。なるほど鬼も調伏できようやという神気のようなものすら感じ入る程でした。

 現代の漫画をベースにしながら既に古典のような風格を持ち合わせていて、再演を重ねて遥か先の未来で古典として息づいていてほしいとふと思っていました。伝統芸能への入り口としてこれほどのものもなかなか無いでしょう。良い経験ができました。これから古典能もいろいろ観てみたいなぁ。

 なお、今回の文章を書くにあたり、「能狂言鬼滅の刃」パンフレット、「日本芸術文化振興会」ホームページなどを参考に致しました。

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