ちゅうカラぶろぐ


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先日の鳥山明さんの訃報の衝撃も醒めやらぬうちに、声優のTARAKOさん、そして今日はイラストレーターのいのまたむつみさんと相次ぐ訃報に、多感な時期に作品に触れてきた身としてはやるせなさばかりが募ります。少しずつその頃に鮮烈な印象を刻みつけた方々を見送る時期に、自分が差し掛かっていると言うことかもしれません。
 TARAKOさんは「ちびまる子ちゃん」という金字塔でその存在を知り、実は「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」に端役で出演しているのを後から知るという感じでした。2001年に放送された「ノワール」では慈愛と非情さを併せ持つ超然とした女性アルテナを演じ、従前のイメージを大きく覆す演技に唸った覚えがあります。
 いのまたむつみさんは、自分にとって最初に触れたのは「小説ドラゴンクエスト」の挿絵ではなかったかと思います。その後は「宇宙皇子」「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」「ブレンパワード」あたりの印象が強いですね。代表作の一つと言われる「幻夢戦記レダ」を観たのはほんの数年前ですし、長年藤島康介氏と二本柱で手掛けていた「テイルズ」シリーズは恥ずかしながらほとんどプレイしたことが無いため近年の実績はほぼ素通りに近く、いずれはちゃんと触れておきたいですね。

 こんばんは、小島@監督です。
 謹んでご冥福をお祈りいたします。

 さて、今回の映画は「落下の解剖学」です。

 人里離れた雪山の山荘で、1人の男が転落死した。事故とも自殺ともつかぬ状況だったが、次第に殺人の線が浮上し男の妻であるベストセラー作家のサンドラ(サンドラ・ヒュラー)に容疑がかかる。現場に居合わせたのは2人の息子であり視覚障害を持つ少年ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)ただひとり。警察はサンドラによる殺害と断定しサンドラを起訴。裁判が始まった。証人や検事により、夫婦の嘘や秘密が少しずつ明らかになってゆく。

 冒頭、サンドラは学生からのインタビューを受けるシーンから始まります。しかしサンドラは質問の回答をはぐらかし曖昧な会話が繰り返されるうち、突然大音量で音楽が流れ出しその音に邪魔されてインタビューは中止する羽目になってしまいます。
 この違和感を抱かせずにおかないイントロは、しかし物語が進むにつれて理路整然と象られていくどころか次第に増幅していき観客を幻惑の迷宮に誘います。今年の米国アカデミー賞脚本賞を獲得した一作は、男の転落死をきっかけに、裁判の中でまるで緻密なパズルが組み上がっていくかのように家族が抱える嘘や秘密が解き明かされていくのを見届ける法廷劇です。「落下の解剖学」というユニークなタイトルは実に言い得て妙で、少しずつ、しかし着実にメスが入れられていくのです。主要人物はごく少数に絞り込まれ、冷静で透徹したテリングはどこかドキュメンタリー的ですらあります。

 物語の鍵を握るのがダニエル。サンドラに主眼が置かれている序盤から折に触れ印象付けられるようなシーンが挟まれるほか、冒頭に流れる曲を除けば本編中に流れる音楽はダニエルが作中でレッスンのために弾くピアノの音だけ、というのも象徴的です。
 目が見えないために両親のことで知らないままでいることも多いものの、公判の行方を時に証人として立ち時に傍聴人として耳を傾け、11歳という年齢で知るにはキツいことまで知ってしまい傷つきもするものの、その日々の中で誰知らず成長していきます。そして最後にある決断をするのです。

 どうやっても割り切れず、何を選んでも後悔せずにはいられないことに直面することも人生にはあり、しかしその割り切れない気持ちを抱いて歩いて行くしかない。伏線が回収され物語が収束するカタルシスとはいささか異なりますが、人間の機微を見事に描いてみせた逸品。
 傍聴人になったような気持ちで、見届けてください。


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