ちゅうカラぶろぐ


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どういうわけか今年の夏は歴史もののアニメが花盛り。北条氏の滅亡から足利氏の勃興期、「中先代」と呼ばれた北条時行の戦いを描く「逃げ上手の若君」第二期、後に世阿弥と名乗ることになる少年・鬼夜叉が芸能の道を切り拓いていく「ワールド・イズ・ダンシング」、現代の女子高生が古代ヒッタイト帝国へとタイムスリップする「天は赤い河のほとり」、そしてチンギス・カンの西征により拠り所を失った少女ファティマがモンゴルの地で復讐を誓う「天幕のジャードゥーガル」と、いずれ劣らぬ代物で日本の漫画文化の奥深さや分厚さを堪能できる顔触れ。長すぎるタイトルのファンタジーものに少々倦み疲れていた身にとって1本だけでも「勝ち」のタイトルが何本も同時期に出て来た今期のラインナップにはなかなかエキサイティングです。

 こんばんは、小島@監督です。
 何なら最近ようやく「チ。地球の運動について」も見始めたのでにわかに歴史づいております。

 さて、今回の映画は「オブセッション災愛」です。

 楽器店でアルバイトしている青年ベア(マイケル・ジョンストン)は、同じバイト仲間のニッキー(インディ・ナバエレッテ)に片想いしているが、気弱で内向的な性格が災いして一向に想いを伝えられないでいる。
 ある時ベアは、ネックレスを失くして気を落とすニッキーにアクセサリーを贈ろうと立ち寄った雑貨店で「ワン・ウィッシュ・ウィロー(願いの柳)」という名のアイテムを見つける。それは2つに折るとその者の願いを1つだけ叶えてくれると言う。ベアはニッキーを射止める願いをかけて柳を折った。すると願い通りにニッキーはベアを愛し始めるが、やがてその愛は執着へと変わって行く。

 「猿の手」、というのをご存知でしょうか。イギリスの小説家ウィリアム・ジェイコブスが1902年に発表した短編で、3つの願いを叶える魔力が宿っているが運命を捻じ曲げようとする者には災厄をもたらすという呪物「猿の手のミイラ」を手にした老夫婦の顛末を描く物語で、いわゆる「3つの願い」のお伽話をベースにしたホラー小説です。後世に与えた影響がことのほか大きい作品の一つで、スティーブン・キングの「ペット・セマタリー」「神々のワード・プロセッサ」、西尾維新の「するがモンキー」、光原伸の「アウターゾーン」の一編「魔神の手」など洋の東西を問わず多くのフォロワーが生まれました。「願いが叶う」ことに対する危険性への認識も覚悟も無い者に対して超自然的な「何か」は容姿しないのです。
 そしてここに新たな「猿の手」ものの傑作が登場しました。YouTubeでの動画製作を主戦場にしていたクリエイター・カリー・バーカーの劇場長編映画デビュー作であり、予算規模も75万ドルという低予算ながら4億ドルを超える興行収入を叩き出し、オリジナルのホラー映画としては史上最高興収を記録しました。そんな新星が遂に日本公開です。

 正直言ってちょっとヤバいくらいに怖い。それはもう笑ってしまうくらいに。ただの添い寝なのに緊張感がただならない。一緒にいようといまいとどの角度から恐怖が襲ってくるか分からない。悪霊も裸足で逃げ出すほどの恐怖をもたらすもの、それは愛です。時に愛で人間は絶体絶命に陥ります。洋画にセンスの無い邦題が付けられてげんなりすることも少なくないですが、「災愛」とは言い得て妙な、実際観るとこれしか考えられないような邦題を良く付けたものです。
 そして確かに一見「ドラッグがキマってるように見えるが実際はそれどころじゃない」、まさに「オブセッション(執着)」と呼ぶに相応しい愛が止まらないニッキーを演じるインディ・ナバエレッテの怪演はもう必見のひと言です。
 また主人公ベアはその気弱さ故にずっと優柔不断で成長しない、という人物像も妙なところでリアルです。そしてそれ故に事態はさらに悪化の一途を辿って行き、より混沌としていきます。

 ストーリー的な妙もさることながら、それを見せるカリー・バーカー監督の手腕も見事。どこまでを説明してどこまでを説明しないか、どれくらいを直接画面に出すか出さないか、その足し引きの加減が絶妙。初監督、そして20代の若さでここまでできるとは末恐ろしい新星が現れたものです。
 ラブストーリーホラーとコメディが渾然一体となり、ジェットコースターのような乱高下を伴って観る者に襲いかかってくるので、終わる頃には謎にテンションが上がっていることでしょう。

 ベースとなったものは古典的なものでもアイディアと見せ方一つでどこまでも斬新なものを作り上げられる、クリエイティブの真骨頂が観られる一本です。もしかしたら今作の監督や主演陣は今後トップに躍り出るかもしれない、そういう先物買い的な楽しみもあるかもしれません。いずれにしても「旬」を感じられる作品であるに違いなく、気になっているなら配信など待たずにどうぞスクリーンで味わってみてください。

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