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ちゅうカラぶろぐ


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今日の帰りの電車の車中にて、どこかのコンビニで買ったと思しき生クリームを乗せたプリンを食べている女性がいました。
結構混雑した車内で、しかも立ったまま!もちろん片手にプリン容器、片手にスプーンなので吊り革などにも掴まらないままの姿勢です。
常識非常識云々の前に一歩間違えば非常に危険なトラブルが発生しかねないタイトロープな状況でプリン食べられるとか大した度胸。

こんばんは、小島@監督です。
いや、むしろあれは何かの罰ゲームだったのでしょうか?

さて、今回の映画は今年77歳になるイギリス映画の巨匠ケン・ローチの最新監督作「天使の分け前」です。
このタイトルの「天使の分け前」とは醸造に関わる言葉でもあり、少し解説しますとウィスキーやブランデーなどの蒸留酒は木の樽で長期的な熟成の期間が存在します。木樽は液体は通しませんが気体は通すため、水分やアルコール分が少しずつ蒸発していきます。この蒸発して気化した分を「天使の分け前」と呼びます。その量はおよそ年に2%。熟成する期間が長ければ長いほど天使の分け前は増えていきます。ブランデーの生産が盛んなフランス・コニャック地方では1日に1,5000リットルもの天使の分け前が発生しているとか。

スコットランド・グラスゴーに住む青年ロビーは荒んだ環境に育ち、自身も少年刑務所を出所したばかり。恋人と近く生まれてくる赤ん坊の為に今度こそ人生をやり直したいとするもののまともな職も無く親の代からの宿敵クランシーに付け狙われる日々が続く。
売られた喧嘩を買い、裁判所から社会奉仕活動を命じられたロビーは、そこで現場監督のハリーと作業仲間のアルバート、ライノ、モーらと出会う。
恋人が息子を出産した日、病院に駆け付けたロビーはそこでクランシー一味に襲われる。激昂するロビーを必死でなだめ、傷を手当てしてくれたのはハリーだった。初めて自身を理解してくれる大人であるハリーと気の置けない作業仲間との日々がロビーを真っ当な道へと導いていく。
そんなある日、ウィスキー愛好家でもあるハリーは「課外活動」と称してロビーたちを蒸留所見学に連れ出した。そこでウィスキーの世界に触れたロビーは、ハリーの薫陶を受けテイスティングに才能に目覚めていくのだった。

スコッチウィスキーを題材の中心に据え、社会復帰の為に奮闘する青年の姿を描いたこの映画はしかし決してヘビーな物ではなくユーモアを交えて軽快に、それでいて複雑な味わいを持つ1本です。
真っ当な暮らしをしたいと願いながらなかなか上手く行かないロビーの姿はそのまま近年イギリスで増加中の若年失業者の姿でしょうし、それは日本でも共感しやすい人物像だと言えるでしょう。
ロビーを社会の被害者として描き感情移入し始めた頃に刑務所に入ることになった発端にも描き犯罪者ロビーの姿にも目を逸らさせない冷静かつ公平な構成もポイントで、巨匠ケン・ローチの手練を存分に味わえる事でしょう。

丹念にリサーチしたであろうこの作品はキャスティングについても活かされ、主人公ロビーを演じるポール・ブラニガンはこの映画のシナリオを担当したポール・ラヴァティに取材中で出会うまで実際に幼子を抱えてその日暮らしをする失業者であり作中何度も指摘される顔の傷はメイクではなく彼の顔に本当に刻まれた喧嘩の傷だそうです。当然演技経験も無い素人だったのですが監督に抜擢されこの映画で数々の賞に輝きました。

もちろん陰の主役と言うべきスコッチウィスキーも多様に登場します。が、何より美味しそうなのは作中子供が生まれたロビーを祝ってハリーが振る舞う「スプリングバンク32年」。日本で購入すると5万円前後する代物ですが、価格がどうこう言うよりコレを飲んでる時のハリーの仕草と語り口が本当に美味しそうです。私はまだ飲んだ事の無い酒なので是非とも一度飲んでみたくなりました。

「天使の分け前」はその軽快な展開とユーモアをシンプルに楽しむも良し、イギリスの社会情勢やウィスキーについての知識を仕入れてより奥深く楽しんでみるも良しのまさにウィスキーが如く練達の味わいの1本です。上映期間がそろそろ終わってしまうのが少々残念ですが、ソフトがリリースされたら気心の知れた仲間たちとグラスを傾けつつ感想を語り合うのもきっと楽しいですよ。




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