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ちゅうカラぶろぐ


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この週末はラブライブ、うたのプリンスさま、アイマスとなぜか全国各地でアニメ関係のイベントが開催され、会場まで遠征を行った方やライブビューイングに足を運んだ方も多いのではないでしょうか。
とは言え全体を観れば活気があって素晴らしいと思うのですが、どうして何もかも同じ日に開催されるのでしょう?あれもこれも観たい方には取捨選択を迫られる週末でもあったでしょうね。

こんばんは、小島@監督です。
私ですか?私はもちろん仕事です(泣)
せいぜい仕事上がりに「ストライクウィッチーズ」を観に行くのが精一杯でしたさ。

さて、今回はちょっとユニークなアニメ映画をご紹介。「TATSUMI マンガに革命を起こした男」です。

彼の名は漫画家辰巳ヨシヒロ。
1950年代後半、いわゆる「貸本漫画」の隆盛に伴い従来の子供向けとは一線を画す、生々しい人間の感情をぶつける大人向けの作品を描く作家たちが登場し始める。その最中、新聞各紙は「俗悪マンガの氾濫」として貸本漫画を糾弾するキャンペーンを展開。それに憤慨した辰巳ヨシヒロは子供向け漫画とは違う大人向けの漫画を指し示すものとして「劇画」という言葉を生み出した。
そして時代は高度経済成長期へと移って行き、「少年サンデー」「少年マガジン」と言った週刊誌の創刊も追い風となり、「劇画」は手塚治虫すら嫉妬するほどのムーブメントを巻き起こすようになる。
これは手塚とも「トキワ荘」の面々ともまた一味違うマンガの昭和史である。

辰巳ヨシヒロという漫画家については正直あまりよく知りません。知ってる事と言えば「劇画」という言葉を生み出した事と、彼の自伝的作品であり、この映画の原作とも言える「劇画漂流」が2009年の手塚治虫文化賞大賞を受賞した事、くらいでしょうか。作品は読んだ事が無いですね。
後になって知りましたが「劇画漂流」は1990年代半ばから約10年間に渡って「まんだらけ」の季刊カタログに連載されていたものを単行本化したものだとか。もしかしたらそちらの方で目にした事のある方はいらっしゃるかも。
余談ですが辰巳が「劇画」という言葉と共に立ち上げた漫画家グループ「劇画工房」のメンバーの中には後に「ゴルゴ13」で国民的人気を獲得することになるさいとう・たかをがいたりします。

映画はその「劇画漂流」をベースに、辰巳ヨシヒロが1970年代に発表した短編5編を挿入する形で構成されています。ナレーションを辰巳ヨシヒロ本人が担当しており、さながらドキュメンタリーを観ているかのようです。

本編に挿入する形で登場する5つの短編も従軍カメラマンが原爆直後の広島で撮影した1枚の写真を巡って数奇な運命をたどる「地獄」や、落ち目の漫画家がたまたま駆け込んだ公衆トイレの壁に描かれた卑猥な落書きにのめり込んでいく「はいってます」など、時にハードに時にユーモラスに人間の業や生々しい感情を叩きつける作品が並び、観る者の心を揺さぶります。
作中のナレーションではない辰巳のセリフと短編の主人公は全て別所哲也が演じており、その演じ分けの見事さはある種落語的のようにも思えました。
原作の描線を極力活かすような形で映像化されているようで、その素朴ですらあるビジュアルも最近のアニメとは一線を画しますね。

この映画を最もユニークにしている点は、日本の漫画を原作にし、作中の言語もすべて日本語であるにもかかわらずこの映画は邦画ではなく洋画であるところでしょう。監督はシンガポールを中心に活動するエリック・クー、アニメートはカナダのクリエイター・フィル・ミッチェルの指揮のもと、インドネシアのスタジオで製作されたそうです。
近年ようやく再評価の機運が生じているとは言え日本では既に忘れられた作家といえる辰巳ヨシヒロは実は海外での評価が非常に高く、「劇画漂流」の英訳版が発売された際にはニューヨーク・タイムズが一面で取り上げたりしたそうで、書店のコミックコーナーでは手塚の隣に並んでいる事も珍しくないとか。
映画の原作への多大なリスペクトを観ればそれも納得と言ったところでしょう。

この映画について非常に残念に感じてしまう点は、一人の漫画家から見た昭和史としてこれほど深い洞察を兼ね備えた映画が日本では成し得なかった、その一点に尽きるでしょう。同時に日本の漫画が思った以上に世界で読まれてる事にも驚きましたが、ジャパン・カルチャーとして持て囃される昨今ですが、手塚治虫の没後から既に四半世紀を経ながらまだ漫画は真に「文化」としてはまだ緒に就いたばかりなのだ、と思わざるを得ません。逆に「マンガ」にはまだそれだけ広い裾野があるのだ、という考え方もできるでしょうか。

決してメインストリームに立つことは無い映画ですが、観る者に様々な感情と感慨を喚起させずにはおかないこの作品、機会があれば是非触れてみて欲しい1本ですね。マンガ勃興期のエネルギーをそのまま伝える熱気を宿したこの作品、味わっておいて損は無いと思いますよ。

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