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ちゅうカラぶろぐ


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放送時は最序盤の数話だけ観たっきりになっていた「ドラゴンクエストダイの大冒険」を最近ようやく観始めました。きっかけはと言えば原作者・三条陸の業績を当人のロングインタビューで紐解く書籍「三条陸HERO WORKS」を読んだから、なのでまあまあチョロいですが、こういう勢いはやっぱり大事。

 こんばんは、小島@監督です。
 既に全体の4分の1ほどは消化して、いよいよ旧TVシリーズでは描かれていない領域が始まろうとしています。原作コミックは何度も読んでいて先の場面どころかセリフも知ってるくらいなのに楽しみで仕方ない。

 さて、今回の映画は「ぼくたちの哲学教室」です。

 北アイルランド、ベルファストにあるホーリークロス男子小学校。ここでは「哲学」が授業に取り入れられている。エルヴィス・プレスリーをこよなく愛する校長ケヴィン・マッカリーヴィー自ら行うその授業では「どんな意見でも価値がある」という信条のもと子ども達は異なる立場の意見に耳を傾けながら自らの思考を整理し、言葉にしていく。

 北アイルランドと言えばプロテスタントとカトリックによる宗教的・政治的対立が長く続き1960年代には武力衝突にまで発展した過去を持つ土地です。1998年4月にベルファスト合意が締結されたものの、全てが解決するには至らず今なお残火が燻っているような状況です。故にベルファスト市街には各所に「平和の壁」と呼ばれる分離壁によってプロテスタント地区とカトリック地区が隔てられ、その周辺では度々衝突が繰り返されています。
 この映画の舞台となる小学校も対立が色濃く残り発展が遅れ衰退しつつある地域にあるそうです。犯罪や薬物乱用が蔓延り、壁には物騒な落書きが。映画序盤には学校に爆破予告がもたらされ通報により生徒が緊急避難するシーンがあるほど。見ると分かりますが学校を囲む壁もかなり高く設られ鉄条網まで仕掛けられています。ケヴィン校長が哲学の授業を取り入れている小学校は、こんな背景の中に存在しています。

 思考し、対話する。そこで取り上げられる命題は決して安易に答えが出るものではありません。むしろ人生とは答えの無い問いの連続。大人でも時に向き合うには難しいことにケヴィン校長は敢えて子ども達に問いかけます。
 大人でさえ簡単には止められない対立や衝突が、生活のすぐそばにあることを子ども達は見ているが故に、授業で分かったつもりになっても思わぬところで喧嘩になり、感情に任せて暴力を振るってしまうこともしばしばです。ちゃんと実践できるようになるには遠いという現実に晒されながらもケヴィン校長は暴力を許さないというスタンスを崩さない一方で喧嘩の当事者たちに何度でも哲学対話を試みます。

 長期間に渡り取材が行われた事が伺える作品で、映画の後半にはコロナ禍によるロックダウンやネットに触れる時間が増えたことでトラブルに巻き込まれるなど子どもを取り巻く環境の変化に翻弄される姿も活写。しかし厳しい現実に何度も直面しながらもケヴィン校長はプレスリーを口ずさみながら子ども達に問い掛け続けます。そうまでしても卒業後にトラブルに巻き込まれ、時には自ら命を絶ち、親に弔われる者もいます。荒れた時期が長い土地にはそれだけ子どもを食い物にする悪意も存在している事を陰に陽に映画は語っており、その不条理とも向き合いながら日々授業に臨むケヴィン校長の姿を捉えて行きます。
 
 題材が題材だけに寸鉄人を刺すような言葉が続くかと思いきやそうでもなく、むしろ穏やかな雨が大地に沁み込んで行くかのような印象を与える作品です。憎悪の連鎖を断つために長い長い戦いを自らに課し、しかし堅苦しくも無く悲壮感も無い。お茶目でユーモアたっぷりな振る舞いの向こうに熱い魂を感じる校長先生の哲学教室、どうぞ難しく考えずに、先ずは観てみてはいかがでしょうか。

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