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ちゅうカラぶろぐ


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競走馬にとって生涯で一度しか挑戦できないダービーというのはやはり特別なもので、騎手や調教師、厩務員たちの物語と相まって深い感動を呼びます。クロワデュノールが制した昨日のダービー、北村友一騎手が骨折からの復帰後初めてのG1制覇というのも重なってか、NHKの放送では解説の方が最後は涙声になってて上手く喋れない一幕が。あれはさすがにちょっと笑ってしまいました。

 こんばんは、小島@監督です。
 なお馬券は外してしまった模様。今年は全然当たりません(苦笑)

 さて、今回の映画は「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」です。

 イーサン・ハント(トム・クルーズ)がオリエント急行でソースコードに至る「鍵」を奪取してから数ヶ月、サイバースペースで自我を持ち成長し続けるAI「エンティティ」の影響は拡大の一途を辿り、核保有国の兵器ネットワークさえもその手中に収めようとしていた。その「エンティティ」を私物化し支配することで世界を掌握しようとイーサンの旧敵ガブリエル(イーサイ・モラレス)は行動を起こす。イーサンは刑務所に収監されていたパリス(ポム・クレメンティエフ)を救出し、彼女と共にガブリエルを追い始める。
 「エンティティ」は人類世界の全てを終わらせようとしている。イーサンは世界の終焉を止められるのか。

 トム・クルーズが凄腕のエージェント・イーサン・ハントを演じるシリーズの8作目にして、恐らくは最終作になるであろう一本です。前作「デッド・レコニング」から直接続く2部作の後編であると同時に1996年の第1作から続く時間の流れとここに至る7作を少々強引とは言えアーカイブ的に網羅させており、まさに集大成と呼べる作品になっています。
 第3作でいわゆる「マクガフィン」として登場していた「ラビット・フット」の正体が明らかにされたのもびっくりですが、何より全く予想だにしない人物が再登場を果たして物語に深く関わって来たのには流石に驚きました。全体の情報量が非常に多く、過去のシリーズを知っておいた方がより面白いとは言え、これ単体で観てもじゅうぶんに楽しめるものになっています。脚本が完成しないままにクランクインしたという前作は物語が破綻している箇所もあったのですが、ご都合主義が目立つものの物語にちゃんと筋が通っているのも良いですね。

 169分という長尺を、やはりトム・クルーズのアクションが牽引します。沈没した潜水艦の中で展開する水中アクション、2機の複葉機が展開する空中チェイスなど今回も異様な物量で見せてきます。そのほとんどをCGに頼らない生身の、それも本人が挑んでいるスタントだからこそ可能な映像の迫力は尋常ではありません。何もかもが別格のスケールを持っているが故に破格のバジェットがかかっているだろうことが一見にして分かる映像の贅沢さはまさに「ハリウッド映画」そのものですが、今これを作品として成立させられるのはトム・クルーズだからに他なりません。

 バスター・キートンという映画俳優をご存知でしょうか。1920年代サイレント映画全盛期に活躍したコメディ俳優ですが、高い身体能力をもってカーチェイスや蒸気機関車を使ったスタントを取り入れていた人物です。どこまでも限界を越えようとするトム・クルーズはまるで「娯楽映画」の源泉を突き詰めようとしているかのよう。時代も映画製作の潮流も変わりムービースターというものも廃れつつある中で、トム・クルーズは恐らくは最高最後のムービースターなのでしょう。いずれはその時も尽きる。だがそれは今じゃない。
 その眩しいほどの輝きを、どうかスクリーンで目に焼き付けて欲しいですね。

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こんばんは、小島@監督です。
 二日経ってもまだ余韻が残ってるので今回は前置き無しで本題に入ります。

 さて、7月に本格開業を予定しているIGアリーナのプレオープンイベント「HANS ZIMMER LIVE IN JAPAN」の名古屋公演を観に行って来ました。映画音楽の巨匠ハンス・ジマーの初来日公演です。

 ハンス・ジマーは映画音楽の第一人者で1980年代後半から活躍しており製作本数は軽く100本を超え、これまでに10回を超えるアカデミー賞とゴールデングローブ賞のノミネート経験があります。特に2000年代以降のハリウッド映画の音楽の潮流を作ったと言っても過言ではなく、その名前を知らなくても「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「ワンダーウーマン」の音楽を担当した人と言えば分かる方も多いでしょう。
 映画音楽のレジェンドとして名が上がるジョン・ウィリアムズがクラシックの文法を取り入れつつ現代的にモダナイズさせ、映画音楽としては一度は主流派ではなくなった交響楽を復権させ荘厳な旋律で映画を盛り上げるのに対し、ハンス・ジマーはオーケストラとシンセサイザーを融合し、オルタナティブ・ロックやジャズ、アンビエント、時にはアフリカンミュージックの要素も取り入れジャンルを横断しながら映画に最適なスコアを探し出し映像に呼応した緻密な編曲を可能にし、単なる「劇伴」として以上演出効果を音楽に担わせることに成功した人物です。

 ステージはまず「DUNE/砂の惑星」から始まり「マン・オブ・スティール」「ワンダーウーマン」「グラディエーター」「パイレーツ・オブ・カリビアン」と続き、インターバルを挟んで第二部は「ダークナイト」「ラストサムライ」「デューン砂の惑星part2」「ダンケルク」「X-MEN:ダークフェニックス」「インターステラー」「ライオンキング」「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」で畳み掛け「インセプション」で締めくくります。ステージには大きなスクリーンが用意されていましたが楽曲で中心となるパフォーマーをクローズアップして映し出すか演出効果の一環としてイメージ映像を流すにとどめて映画の本編映像をクリップとして使っていないのがポイントで、音楽を映画から解き放とうとする意思が感じられます。

 音楽を解放しようとする試みは演奏面でも表れており、原曲をそのまま演奏するようなことはせず、主旋律だけを残して大胆にアレンジされたものもあり、文脈から自由になった楽曲を映画の思い出と共に楽しむも良し、スコアそのもののパワーを堪能するも良しとなっていました。私個人としてはクリストファー・ノーラン監督作品が好きなので「インターステラー」と「インセプション」が聴けたのが嬉しかったですね。ロックのテイストも強いハンス・ジマーなのでショーアップされたステージとも相性が良く、中でも「インターステラー」でのスポットライトの光線の交差で5次元空間を表現するセンスが出色。映画と音楽の強さが相まって最高に興奮する3時間でした。

 結構MCパートが多く、数ヶ所ではバンドメンバーのチェロ奏者である村中麻里子さんが通訳してくれてましたが基本的には英語オンリー。でも意外と分かりやすくてありがたい。「曲自体は良いのが出来たと思っているけど、映画自体は正直イマイチでしたね〜」と言いながら「X-MEN:ダークフェニックス」の演奏始めたのには笑ってしまいました。披露された中で唯一観ていなかったタイトルなのですが、気になって来たじゃないか(笑)。もちろんそれだけではなくこれまで観て来た作品も改めて再訪したくなりました。

 ハンス・ジマー、近作では6月公開予定の「F1/エフワン」が待機していますし、未だ製作中で公開時期も決まっていませんが「DUNE3」が控えています。トップランナーに勢いは未だ留まるところを知りません。そして願わくば新たな楽曲を引っ提げてまた来日公演を行って欲しいですね。

 ところでIGアリーナ、できたばかりだけあってやはり音が良い。アクセスも名城線名城公園駅降りてすぐととても良いので先々アイドルマスターでも使って欲しい。割と帰りの時間を心配しなくて良い会場は貴重!

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こんばんは、小島@監督です。
 今回は前置き無しで本題に入ります。

 さて、ミッドランドスクエアシネマにて16日から22日まで、「第2回どまんなかアニメ映画祭」が開催されています。昨年全上映回でトークイベント付きという破格の構成で開催され好評を得たようで、今年も開催してくれました。昨年は期間が3日間のみでしたが今年は会期が1週間に。さすがにトークイベント付き上映は土日のみですが、上映作品を鑑賞できる機会が増えました。
 その中の1本、「ファイブスター物語」のトークイベント付き上映を観てきました。

 星団歴2988年、レディオ・ソープ(声・堀川りょう)はドクター・バランシェ(声・田中秀幸)から領主ユーバー・バラダ(声・永井一郎)に連行された人造人間「ファティマ」であるラキシス(声・川村万梨阿)の救出を依頼され、惑星アドラーに降り立つ。

 原作は永野護がアニメ誌「ニュータイプ」にて1986年より度々長期休載を挟みながらも現在に至るもなお連載が続いている作品で、映画は1989年に製作・公開されました。初公開時には「宇宙皇子地上編」と二本立てで上映されており、「ファイブスター物語」は上映時間65分と中編規模の作品になっています。永野護の繊細な描線をキャラクターデザインと作画監督を務めた結城信輝が最大限に活かし切ってアニメートしており、全編に渡って流麗な作画を楽しませてくれます。結城信輝は後年「ロードス島戦記」や「天空のエスカフローネ」などで称賛を受け90年代を代表するアニメーターの1人になっていき、現在でも「宇宙戦艦ヤマト2199」シリーズなどで第一線で活躍しています。

 上映時間が短いため世界観を示すワードに対しほぼ説明がなされないのですが、テンポが良いので流れに乗るように観ていられるのも良いですね。
 実はこの機会を捕まえるまで全く観たことが無かったのですが、作画の美しさと緻密さは今観ても特筆ものです。力のある若いクリエイター達が作り上げているので勢いもあり、その根底にバブル期の力強さみたいなものも感じられます。

 トークイベントにはプロデューサー植田益朗さんと主演した堀川りょうさんが登壇。本編上映前に行われ、当然のように内容に深入りした話が展開されるので今回が初見の私はプロデューサーと主演から盛大にネタバレを頂くという極めて稀有な鑑賞体験になりました(笑)
 植田さんは角川書店のアニメを何故サンライズが製作することになったかという経緯や、自分のところに話が来た時点で公開まであまり時間が無い中で座組をしないと行けなかった苦労などを語ってくれました。そもそも「銀河漂流バイファム」のゲストメカデザインでデビューした永野護を同作で抜擢したのが植田さんだそうで、付き合いが長いせいか強い信頼と共に色々と思うところもあるらしく言葉の端々にちょっと毒が混ざっているのがおかしい。
 堀川さんはソープ役を演じる際、本編の台本をもらう前にキャラクター像を掴む間も無くCM用のセリフを収録することになったらしくそこだけ全く違う演技になってしまったことや作中で
ソープが言い放つ第一声が驚くほどに今の自分には出せない声をしていること、長い付き合いになる役が来たのかと思ったら意外とこれっきりだった(苦笑)、という話などが出てきました。また、植田・堀川両氏に加えて「ファイブスター物語」で演出を務めた今西隆志は後に「機動戦士ガンダム0083」でも組むことになるため、「0083」についての言及もありました。

 「ファイブスター物語」、まず配信にも乗らない上にBlu-rayもほぼ絶版状態で観てみたくても観られないでいたところに今回の企画はまさに渡りに船。付け加えれば関連作品である「ゴティックメード花の詩女」に至っては未だソフト化もされておらず現在では観ようとするなら散発的な企画上映を捕まえるしかない状況で、いずれももっと気軽に観られる機会が増えると良いのですが。
 「どまんなかアニメ映画祭」、前回今回と80年代を中心にした作品のチョイスが素晴らしく、当時直撃できなかった作品が多い自分としてはとてもありがたい企画で是非来年以降も続けて行って欲しいですね。

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「学園アイドルマスター」が間も無く1周年を記念して様々な施策を行っている中で「#美鈴みつけた」というちょっぴり大掛かりなものが始まりました。キャラクターの秦谷美鈴がフラッと散歩に行ってそこで昼寝してる、という体で各都道府県1ヶ所ずつ、場所はシークレットで駅貼りポスターを掲出していると言うものです。聞けば岐阜県は岐阜駅に掲示されているとのことで、愛知県はまあ名古屋駅だろ、と思っていたらまさかの職場の最寄り駅!いやあの公園で昼寝してるかと思うと胸熱。

 こんばんは、小島@監督です。
 「学園アイドルマスター」、そんなに熱心にプレイしているワケでもないのですが1週間身近にアイマスの企画広告があるのは、何となく嬉しい。

 さて、今回の映画は「サンダーボルツ*」です。

 CIA長官ヴァレンティーナ・デ・フォンテーヌ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)からの依頼で軍事会社OXE社の研究施設の破壊を命じられ、エレーナ(フローレンス・ピュー)は潜入工作を行っていた。ヴァレンティーナは弾劾裁判の危地にあり、かつて自身がCEOを務めていたOXE社では非人道的な人体実験が行われており、その証拠の隠滅を図ろうとしていたのだ。エレーナは仕事を成功させるがこう言った裏稼業に幻滅し始めていた。
 これが最後の仕事とヴァレンティーナからの任務を引き受けたエレーナは、僻地に立つOXE社の地下施設に赴いた。そこでエレーナは何故かジョン・ウォーカー/U.S.エージェント(ワイアット・ラッセル)、エイヴァ・スター/ゴースト(ハナ・ジョン=カーメン)、アントニア・ドレイコフ/タスクマスター(オルガ・キュリレンコ)らと鉢合わせ戦闘になる。更に彼らも知らないボブ(ルイス・プルマン)と名乗る青年まで現れ、事態は更に混乱してゆく。

 長く高い人気を誇りクオリティにも定評があったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)ですが、到達点と言って良い「アベンジャーズ/エンド・ゲーム」以降はシリーズの肥大化と共にかつての勢いを緩やかに失っていきます。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」のように興行的にも批評的にも大成功を収めた作品はその後も登場しますが、映画だけでなくドラマシリーズまで網羅する必要が生じ、「マーベルズ」のように映画1本観るための宿題があまりに多過ぎる作品まで現れました。また、明らかに持て余していたマルチバースの概念、更に作品の乱発がクオリティの乱高下を引き起こし私もそうですが食傷気味になっていたファンも多いのではないでしょうか。
 コロナ禍の影響下にあったとは言え「アントマン&ワスプ:クアントマニア」が興行的に大失敗したことでさすがに危機感を覚えたのか、近作では軌道修正が図られ、「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニューワールド」では過去作と深めのリンクが用意されていたものの一人のヒーローの葛藤と出発の物語としてごくスマートに作られていました。
 今作「サンダーボルツ*」では更にリンクも少なくなり、予習が必要なのは「ブラック・ウィドウ」くらいで何ならそれも観てなくても何とかなるくらいに1本の映画として独立した輝きを放っています。

 特殊能力持ちが少なく単にちょっぴり普通の人より強いだけの集まりなので「アベンジャーズ」どころかDCの「スーサイド・スクワッド」のような存在にもなれないB級なエレーナたちは皆簡単には癒せない傷と孤独を抱えています。映画はそんなエレーナたちの孤独に寄り添いその心を癒すように物語を紡いでいきます。核となる人物描写も良くできていて、そもそも主人公エレーナの心境がまあまあブラック企業勤めですり減ってる人のそれなので仕事で疲れてる人にはなおさらに「自分の映画」のように思えるのではないでしょうか。そんなエレーナを演じるフローレンス・ピューの演技がことのほか素晴らしく、「ミッドサマー」以上に彼女の代表作となりそうです。

 宇宙の存亡に関わるようなスケールの大きさは無く、ごくパーソナルなところで終始し、それ故に余分な説明も少なくそのぶん分かりやすい物語になっています。「孤独」だけれど「ひとりぼっち」じゃない。登場人物だけでなく観客にもそっと寄り添うような優しさを持った1本。ついでに言うと撮影監督や編集など主要スタッフにA24作品に関わった者が多いからか、どこかA24的な作家性の強さも感じさせます。
 惜しいのは最近ちょっと勢いを失っているところに「名探偵コナン」が席巻している真っ只中とあって公開初週から上映回数が少ないということでしょうか。何も予備知識が無くても軽率に観に行ってもいい気軽さがある今作、この1本がMCU再起の1作になると嬉しいですね。

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なかなか普段の自分のパターンには無い行動ですが、ゴールデンウィークも終盤の今日は気心の知れた仲間たちとバーベキューを楽しんでました。中には数年ぶりに会う人もいたのですが、多少近況を話せばもう以前のままのノリで会話が弾んで行くのはやっぱり嬉しいし楽しいですね。

 こんばんは、小島@監督です。
 いよいよ私も後半に差し掛かって来た身なので、会える内に会っておきたいものです。

 さて、今回の映画は配信作品から一つ。Netflix版「新幹線大爆破」です。

 新青森発東京行き新幹線「はやぶさ60号」は定刻通りに出発した。車掌の高市(草彅剛)はいつもと変わらぬ思いで乗客を迎え、乗務に向き合っている。そんな折JR東日本に一本の電話が入った。はやぶさ60号に爆弾を仕掛け、時速100kmを下回ると爆発するという。いたずら電話かと思われたがデモンストレーションとして貨物列車が一編成本当に爆破されてしまう。新幹線総合司令長・笠置(斎藤工)は直ちにはやぶさ60号に時速120kmでの走行と全駅の通過を命じ、少しでも時間を稼ごうとするが。

 新幹線というのは現代日本の建造物やインフラとして極めて象徴的な存在と言えるでしょう。それ故に数え切れないほど様々な作品の舞台にもなって来ました。1975年に佐藤純弥監督が高倉健や千葉真一ら豪華キャストで作り上げた「新幹線大爆破」は、オイルショックにより高度経済成長が止まり、更には東アジア反日武装戦線が三菱重工や鹿島建設など旧財閥系や大手ゼネコンを次々に爆破した、いわゆる連続企業爆破事件が勃発し極左勢力が急速に支持うるさい失っていった時期に製作され、当時の世相を色濃く映した作品になっていました。今観るとガバガバな部分も多いもののそう言った時代の後ろ暗い空気感は読み取れるはずです。「一定のスピード以下になると爆発する列車」というアイディア自体も秀逸で後に与えた影響も大きく、キアヌ・リーブスが主演した「スピード」や名探偵コナンの劇場版第1作「時計じかけの摩天楼」などのフォロワーも生まれました。
 そんな作品を半世紀越しに蘇らせるこの企画、一体どんなアプローチで来るのかと思ったら、単純なリメイクではなく1975年版が実際に起きた事件として半世紀を経た今になって模倣犯が現れた、という筋立てになっており、1975年版が思いもかけぬ形で物語に作用してくるところが大きな見どころになっています。

 正直言うと、監督が樋口真嗣で主演が草彅剛と聞いた時、この2人がタッグを組んだ2006年の「日本沈没」のイマイチにも程がある出来を思い出してちょっぴり不安だったのですが、そんな杞憂を振り払う見事な作品に仕上がっていました。1975年版に負けず劣らずの大味な脚本ではあるものの、それを補って余りある魅力が炸裂しています。
 サスペンスとしては中盤当たりで犯人や構図がほぼ固まり切ってしまうため、いささか拍子抜けする部分もあるのですが、むしろ「止められない新幹線から乗員乗客をどう救うか」に焦点が絞られてから映画としてはより強く一本線が走るようになります。序盤はちょっといけ好かない人物として描かれる者まで含めて官民あげてできる最善を尽くし、変に無能な存在が足を引っ張ったりしない最強お仕事映画として熱い展開が待っています。雰囲気としては樋口真嗣も参加していた「シン・ゴジラ」が近いですね。1975年版が企業体や国家権力に対する不信感を強く滲ませた作りになっているのとは対照的です。何より1975年版では当時の国鉄から協力を取り付けられず、駅舎などは隠し撮りで撮影した映像を使ったりしていたそうですが、今回はこんな内容であるにも関わらずJR東日本の全面協力を取り付け、ディテールを確かなものにしているあたりにエンターテインメントに対する企業側の姿勢の変化も作風に如実に表れています。

 主演草彅剛を始め斎藤工、尾野真千子らの演技も素晴らしく、特に運転士役ののんさんは出色です。また個人的には映画監督でドキュメンタリー作家の森達也さんが出演していたのにも驚き。正直こう言ったエンタメ色の強いタイプの作品には興味を示さない方だと思っていました。
 この映画、ほとんどの製作大手から企画を断られ最終的にNetflixが拾い上げたことで実現したとか。その経緯故に配信映画として製作されましたが結果的にそれが唯一最大の欠点ともなりました。いや、こういうのこそ映画館の大画面と大音響で観たい。今からでも遅くないからどこかで上映して欲しいものですね。

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昨日閉館を迎えた大須シネマの最終上映を観ようと当地へ行ったら、結構な人数が早朝から並んでいたらしく、自分が劇場に着いた頃には既に完売。ただその前の上映回がまだ辛うじて席が残っており、せめてそれくらいはとその回を観てきました。特色のあるミニシアターは得てしてそうなるものですが、作品ではなく映画館自体にファンが付きます。僅か6年半ほどの短い営業期間だったとは言え大須シネマもそんな映画館でした。街に定着し切らないままに閉館となってしまったことが本当に残念でなりません。

 こんばんは、小島@監督です。
 しかし最狂サメ映画フェスみたいなエッジの効いた企画を受け継げるような映画館、名古屋どころか日本にあるのかな…

 さて、今回の映画は「名探偵コナン隻眼の残像」です。

 長野県、国立天文台野辺山で何者かが施設内に侵入し、居合わせた職員が襲撃され負傷する事件が起きた。捜査に向かった大和勘助(声・高田裕司)と上原由衣(声・小清水亜美)だったが突如勘助の左目の傷が疼き苦しみ始めた。
 その頃、毛利小五郎(声・小山力也)の元に警察時代の同僚・鮫谷浩二(声・平田広明)から連絡が入った。10ヶ月前に起きた八ヶ岳連峰雪崩事故とそれに巻き込まれた大和勘助について調べていた鮫谷は小五郎の言葉に何かを気づき、小五郎と会う約束を取り付けた。当日、蘭(声・山崎和佳奈)、コナン(声・高山みなみ)と共に小五郎は約束の場所へ向かうが、会う直前に鮫谷は何者かに射殺されてしまった…

 長年ゴールデンウィークの顔にして近年は興行収入上位の常連でもある「名探偵コナン」、今年は隻眼の刑事大和勘助を始めとした長野県警の面々をフィーチャーしつつ、陰謀と絶望が渦巻く事件が展開します。序盤で旧友が殺されてしまう毛利小五郎もいつものコメディリリーフぶりをかなぐり捨ててひたすらに本気スイッチが入っているのも大きな特徴で、結果的にいつも以上にヘビーな雰囲気を持った作品になっています。
 コナンにしてはいつに無く深い悲哀を携えた登場人物が多い今作の脚本をものにしたのは櫻井武晴。2013年の「絶海の探偵」以降2〜3年おきにコナン映画の脚本を手がけており、今回で7作目になります。2023年の「黒鉄の魚影」と言い彼が脚本を書くと割とシリアス寄りの作風になりますね。

 鮫谷の射殺事件に加えて天文台の侵入事件、勘助が巻き込まれた雪崩事故、更には8年前に起きたというある事件まで絡んでくるという非常に重層的で複雑な構成をしており、まずミステリとしての出来が良く、なかなか先を読ませず伏線も練られています。関係者も数多い中、ほぼ全員に何かしら見せ場が用意されている匙加減も大したもの。珍しく大人が慟哭するシーンが多い今作は観客の感情の揺さぶり方もひと味違う印象で、特に小五郎役小山力也の演技が変わり画面の空気感が変化する瞬間は出色です。
 一方でコナン映画と言えば定番とも言えるクライマックスのカタストロフですが、今回は実在する国立の研究施設相手ではさすがに気が引けたのかちょっと控えめ。そのぶん作品としては引き締まっています。いや、実在の施設と言っても「紺青の拳」でシンガポールのマリーナベイ・サンズは派手にブッ壊されてましたが(笑)。ただ惜しい点としてはこのテーマと流れであるなら最後の「詰め」も毛利小五郎に任せてやって欲しかったというところでしょうか。

 約30年に渡り日本のエンターテインメントを牽引して来たタイトルの底力の強さと懐の深さを存分に味わえる一本。個人的にはシリーズの中でも結構上位に食い込む出来映えに思います。連作障害をものともしないコナン映画の楽しさを是非スクリーンで味わってください。

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昨日の歌会に参加された皆さん、お疲れ様でした。
 今回前日に大学の同期の集まりがあって東京まで行ってました。カジュアルで良いとは言え雑な格好をしていくワケにもいくまいととジャケット着て行ったら、まあ暑かったですね(笑)。着る服を間違えたとちょいと後悔しましたよ、ええ。

 こんばんは、小島@監督です。
 十数年ぶりの再会でしたが、次は皆が健康な内に早めに集まろうぜと約束を交わしたあたり、やっぱり歳を重ねてしまいました(苦笑)

 さて、今回の映画は「教皇選挙」です。

 カトリック教会の最高指導者ローマ教皇が亡くなった。
 バチカンの首席枢機卿トーマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)は次期教皇を決める選挙「コンクラーベ」を取り仕切ることになった。
 世界中から108人の枢機卿団がシスティーナ礼拝堂に集結する。その中から誰かが2/3の票を獲得し新教皇として選出されるまで何日も投票を繰り返し、その間枢機卿団は礼拝堂の外へ出ることは許されない。
 果たして新たな教皇は誰になるのか。長い数日間が始まる。

 2013年に職を辞したベネディクト16世のように生前辞任する方もごく稀に出ますがローマ教皇というのは基本的に終身制です。カトリック教会の信徒の数は14億人に及ぶとか。選任者の寿命が尽きるまで、それほどの数を擁した教会の方向性を決めることになるコンクラーベは、恐らく私のように信者でない者には想像しがたいほどに熾烈でしょう。キリスト教世界の行く末を決めると同時に閉ざされた礼拝堂の中で行われる密室劇。不謹慎な言い方をすれば極めて魅力的な題材とも言えるコンクラーベをスキャンダラスかつサスペンスフルに描きます。ロバート・ハリスの原作小説を「裏切りのサーカス」で知られるピーター・ストローハンが脚色し、「西部戦線異状無し」で高い評価を得たエドワード・ベルガーが監督を務めています。あまり大手シネコンの配給には乗らなかった作品ながら期待以上のヒットとなり、上映館ではロングランになりそうな勢いです。

 徹頭徹尾計算され尽くされたカメラワークで痺れるような緊張感を持続させてくるサスペンスです。かなり複雑な構図をしていますが、主要な枢機卿たちが割と皆アクの濃いキャラクターしているのである程度メインどころを押さえてしまえば物語の流れを追うこと自体はそれほど難しくはないでしょう。舞台が舞台な上に要所要所で宗教画を思わせる構図が登場するので荘厳な雰囲気を持っているのも特徴です。

 むしろそうであるが故にこの映画を難しくしているのは、かなりの予備知識を必要としている点でカトリックに馴染みが無いとどうしても表層を追うだけになってしまうところでしょうか。正直なところ私もどこまで読み取れたものか。
 例えば現教皇フランシスコはアルゼンチン出身で、ヨーロッパ以外からの教皇選出は実に1272年ぶりだったと聞きます。そうなった背景にはカトリックの司祭が信徒の子供たちを性的虐待していたというスキャンダルに端を発してカトリックの権威が低下していることへの危機感もあったようです。カトリックは司祭の威光が強く、妻帯を禁じられている傍ら女性の地位を非常に低く見ていることでいわゆるミソジニーを生みやすく、故に性加害が起こりやすい土壌をしていました。2002年ボストン・グローブ紙が司祭の長期間の性的虐待をスクープ報道してそれが露見しました。しかし当時教皇の座に就いたベネディクト16世は非常に保守的なスタンスを堅持し、謝罪はすれども改革に着手しなかったことが一層権威を失墜させる結果を招きました。
 こう言ったところを踏まえて鑑賞すれば、挑戦的と言って良い最後のシークエンスの凄みにも思い至れるかと思います。他にも様々なトピックを内包しているようで、配給側も必要性を感じているのかパンフレットだけでなくオフィシャルサイトでも結構な文章量で解説してくれています。さすがに事前に見てしまうと結末の楽しさが半減してしまうので鑑賞後の閲覧をお薦めします。

 と、ここまで書いていたらローマ教皇フランシスコの訃報が。ちょっと待っていくら何でもタイムリー過ぎる。数週間後にはフィクションではない現実のコンクラーベが始まります。激動する世界の中でカトリック教会はどんな道を指し示すことになるのでしょうか。

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