ちゅうカラぶろぐ


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NHK Eテレで深夜にひっそり放送されたのでご存知ない方が多いのではないかと思いますが、先日「駅が語れば」というドキュメンタリー番組が放送されました。JR北海道の宗谷本線、最北の無人駅と言われた抜海駅、今年3月に100年の歴史に幕を下ろした駅の最後の数ヶ月と、駅と鉄道と共に生きた人々の姿を綴った作品です。意にそまぬ結婚で鉄道に乗って駅に降り立ち、しかし献身的な夫に支えられて暮らした女性、鉄道でやって来た流れ者に家族を殺され悔恨の日々を過ごした男性、国鉄民営化の波に翻弄された駅員、そんな人々を静かに見守り続けた小さな駅。イッセー尾形と吉岡里帆の抑制の効いたナレーションに乗せて、映像も音声も降り積もる雪の如く静か。しかし余韻はどこまでも深い。油断すると泣いてしまいそうでした。あまりにも渋くて地味な作品ですが、これこそNHKの真骨頂。できればミニシアターのスクリーンで観たかった。

 こんばんは、小島@監督です。
 「駅が語れば」は今月20日に再放送を予定しているそうで、気になった方は是非!

 さて、今回の映画は「羅小黒戦記2ぼくらが望む未来」です。

 シャオヘイ(声・花澤香菜)は、師である執行人ムゲン(声・宮野真守)のもとで自身の強い力をコントロールする修業に励んでいた。
 そんな折、妖精たちが暮らす集落「会館」の一つが人間の軍隊に襲撃され、妖精を殺す力を秘めた霊木「ルオムー」が強奪された。襲撃の際の映像にはムゲンの姿が捉えられており、長老たちに呼び出されたムゲンはナタ(声・水瀬いのり)の家に軟禁されることになってしまう。
 シャオヘイは姉弟子であるルーイエ(声・悠木碧)と共にムゲンの嫌疑を晴らすべく行動を開始する。

 「鬼滅の刃」や「チェンソーマン」が日本だけでなく世界市場でもメインストリームに躍り出て活況を呈しているように見える日本アニメ市場。しかし単純に経済規模の話だけで言えば、日本を凌ぐ大きさとなっているのが中国です。既に製作本数も日本を凌駕し、今年公開された「ナタ 魔童の大暴れ」(日本では12月26日公開予定)はアニメ映画の歴代世界興行収入を塗り替え第1位となりました。中国経済自体は失速傾向にあると聞きますが、それでも世界のエンターテインメントにおいて中国の存在は極めて大きなものになっています。
 「羅小黒戦記」はもともとは2011年に小規模なWEBアニメからスタート、10年かけて中国を代表するアニメへと成長した作品です。2019年に劇場版が製作され日本では同年に字幕版が、翌年に吹替版が公開、コロナ禍に見舞われながらも口コミで評判を呼びロングランを記録、「鬼滅の刃無限列車編」が日本映画界の救世主となっていた一方で中国アニメの新潮流を印象付けました。5年ぶりの続編となった今作では、前作ではまだ残っていたインディーズっぽさも無くなりビジュアル、ストーリー両面においてスケールアップした堂々の大作です。

 主人公のシャオヘイはまず前作でムゲンとの出会いを通して人間を知り、今作では姉弟子であるルーイエとの冒険の中で価値観の相違と相克を知ることになります。一方でルーイエもまたシャオヘイを通して自身の過去と再び向き合うことに。シャオヘイとルーイエの価値観の相違は技術は教えるけれど心の領域には何も押し付けないムゲンの自然体な薫陶を受け自身の眼で世界を見つめたが故に生まれているものだというところが実に味わい深い。この2人の関係性を縦糸にしつつ、襲撃事件をきっかけに緊張状態が一触即発のところまで行く妖精と人間の相互不信とその陰にうごめく陰謀を横軸に、非常にドラマ性が高くなっています。

 実のところ先述の「ナタ 魔童の大暴れ」を筆頭に「白蛇:縁起」「ナタ転生」「TO BE HERO」など最近の中国アニメの主流は恐らく3DCGの方にあると思うのですが、「羅小黒戦記」はシンプルなデザインに手描きの描線を活かした2Dスタイル。キャラクター人気は主流だけれどアニメの表現としては傍流なのでちょっと独特な立ち位置なのではないかと思います。しかしそのぶん「DRAGON BALL」や「NARUTO」の遺伝子を強く感じられる映像表現は日本人には馴染みやすいのではないでしょうか。しかも超ハイクオリティ。カメラワークの見事さも加わってアクションシークエンスの迫力はこの作品の白眉です。

 正しく洗練と進化を遂げた今作は、台頭する中国アニメのパワーをまざまざと見せつけてくれます。エンターテインメントとしての深みもキャラクターの魅力も増した「羅小黒戦記」、続編も期待したくなっちゃいますね。

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昨日の歌会に参加された皆さん、お疲れ様でした。
といって私は今回欠席。久屋大通公園で土日開催されていた「ANYTIME WHISKY」というウィスキーのイベントにスタッフとして参加しておりました。よもや年に一度あるかどうかの休日出勤と歌会が被ってしまうとは。昨日は一日雨模様だったにも関わらず持ち込んだ商品の中には完売したものもあったりで成功と言っていい印象で歌会を諦めた甲斐もあったというもの。ただ普段デスクワーカーの身で二日間休憩時間以外は立ちっぱなしというのはさすがにきつくて一夜明けてもまだ足が重い。今日を代休にしておいて良かったぜ(笑)

 こんばんは、小島@監督です。
 「ANYTIME WHISKY」は来年も11月に開催が決定しています。良かったら来てくださいねー!

 さて、今回の映画は「もののけ姫」です。

 室町時代、貴族も将軍家の力も弱体化しつつあった頃。北の果てに暮らすエミシ一族の青年アシタカ(声・松田洋治)は、村を襲ったタタリ神と対峙した際に体に呪いを受けてしまう。呪いを絶つ手段を探るためアシタカは西方へと旅立ち、その道中で山犬に育てられた少女・サン(声・石田ゆり子)と出会う。人間を嫌うサンから森から去るように警告されるアシタカだったが、その歩みを止めること無くやがてエボシ御前(声・田中裕子)が治める「タタラ場」と呼ばれる鉄の精錬所に辿り着く。森を切り拓きながら発展を進め力を付けるタタラ場によって森に棲む者たちの生きる場が失われつつあることを知るアシタカ。その夜、タタラ場の住民たちから「もののけ姫」と呼ばれ恐れられる少女・サンがエボシ御前の命を奪うためにタタラ場を急襲した。

 今年の秋はどういうわけだか私の青春時代が大挙して帰ってきています。それも特に1997~98年がピンポイントで。先週このブログでも取り上げた「劇場版新世紀エヴァンゲリオン」もそうですし、「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz特別編」「少女革命ウテナ/アドゥレセンス黙示録」がリバイバル上映されています。配給会社に言わせても単なる偶然の産物らしいのですが。思いっきりモラトリアムな大学生していたとはいえ全てが良い時期でもなかったので観ていて何もかもを「昔は良かった」と浸れるものでもないのですが、それでもやはり10代~20代初めの時間を生きた90年代は自分の中で特別です。そんなリバイバルのビッグウェーブに最大級の大物がやってきました。

 28年前に「もののけ姫」を初めて観たとき、「アニメーションが一段上に行った」と本気で震えた事を覚えています。あまりの感激に日を置かずもう一度観に行きました。重厚な物語構造と徹底した時代考証とが見事にビジュアライズされ、言葉として語るべきところと画として見せるべきところの配分も神がかり的なバランスです。冒頭から完結まで全てのカットが画面の隅まで神経が行き届いて尋常じゃない迫力を放っています。宮崎駿監督は次作「千と千尋の神隠し」をピークに良きにつけ悪しきにつけ作品の傾向がどんどん内的になっていって絵コンテのキレは増しているものの物語としては分かりにくくなっているのが特徴ですが、「もののけ姫」はシナリオのレベルも高く今現在改めて観ても作品の「格」が桁違いです。

 リバイバル上映にあたり4Kリマスターが施され映像と音響がクリアになったところに更にIMAXフォーマットにアップグレードされ、恐らくこの破格の作品を最高純度で味わえる環境が提供されています。久石譲による壮大なBGMの凄みを追体験できるのももちろんですが、ほとんど記憶になかったところで結構繊細に環境音が入っているのに驚かされました。リバイバルとは言え上映館では度々満席になるほどの人気で作品の力を改めて認識できる良い機会となったのではないでしょうか。あまりの好調ぶりに先週からDolby cinema版も上映が始まりました。色彩表現が豊かなDolby cinemaでどう見えるかも興味ありますね。
 様々な意向から宮崎駿作品はサブスクでの配信に乗らないためTV離れが進む昨今では浸透度が弱くなっていると聞きますが、だからこそこれをIMAXやDolby cinemaで初見できる方たちが私にはちょっとうらやましい。

 「生きろ。」というキャッチコピーだった「もののけ姫」と「みんな死んでしまえばいいのに」だった「エヴァンゲリオン」、更に言えば翌年にTV放送された富野由悠季監督の「ブレンパワード」のキャッチコピーは「頼まれなくたって生きてやる」でした。「ブレンパワード」はある程度意識的だったでしょうが「もののけ姫」と「エヴァ」は偶然に対になったと聞きます。1990年代の終わりは「生きる」ことはどういうことか、どこかで問われているような時期でもありました。その時代の熱を今の方たちが微かでも感じ取ってもらえたら、嬉しいですね。

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4勝中3勝を上げてしまうあまりにも神がかった活躍からか何故かメジャーリーグ公式がホラー映画のキャラクターになぞらえて紹介されたりチャック・ノリス・ファクトのような語録(本人はひとこともそんなことは言ってない)が出てきたりしたドジャース山本由伸の獅子奮迅ぶりが強烈だったワールドシリーズもさることながら、アメリカ・カリフォルニア州デルマー競馬場で行われたダートレースの最高峰ブリーダーズカップクラシックでのフォーエバーヤング勝利の快挙に心が震えました。
 1989年の優勝馬サンデーサイレンスは種牡馬として日本の競馬界に変革をもたらした馬でもあり、フォーエバーヤングはそのひ孫。まさに壮大な血脈のドラマ。彼は既にサウジカップでも勝利しており名実共にダート世界最強状態。どこまで進化するのでしょうか。

 こんばんは、小島@監督です。
 それにしても情報量が多すぎる日曜日だ(笑)

 さて、今回の映画は「新世紀エヴァンゲリオン劇場版シト新生」「Air/まごころを、君に」です。

 全ての使徒は倒された。しかし、碇シンジ(声・緒方恵美)は渚カヲル(声・石田彰)の命を奪ってしまったことで精神的に追い詰められ生きる意志も失いつつあった。一方、人類補完計画を進めるゼーレとNERV最高司令官碇ゲンドウ(声・立木文彦)が決裂。ゼーレはNERVの全てを手中に収めるべくまずはメインコンピューター「MAGI」へのハッキングを工作。赤木リツ子(声・山口由里子)の協力を得てどうにか阻止は成功するが、ゼーレは次の一手として戦略自衛隊を投入しての武力占拠を開始した。

 1997年と言えば神戸で児童連続殺人事件、いわゆる「酒鬼薔薇事件」が起き山一證券など大手金融機関が相次ぎ破綻、タイでのバーツ暴落を呼び水としたアジア通貨危機などが起き、それらによって醸成された空気が今に至るも禍根を残す就職超氷河期を生み出しました。
 映画では「インデペンデンス・デイ」「もののけ姫」が大ヒット。年末には「タイタニック」が公開されそれらを超えるヒットを記録することになります。ゲームの方ではSEGAのセガサターンと数年間シェアを競っていたSONYの PlayStationへ「ファイナルファンタジーⅦ」発売を機に趨勢が傾き始めます。
 私は当時大学生。先の見えない不安を抱えながら、それでもどこかモラトリアムの中にいた時期でした。そんな時期に「新世紀エヴァンゲリオン」はまさにブームを巻き起こしていました。「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」に次ぐ第3のアニメブームとも呼ばれていましたね。ここでのムーブメントが現在に至る素地になったと言っても過言ではありません。

 様々な理由からTV放送時では主人公碇シンジの内的世界での心情を語るに留まっていたラスト2話を語り直すという形で完結編「REBIRTH」としてリメイクし、TVシリーズ総集編「DEATH」と共に2本立てで公開するという形で製作が始まった劇場版エヴァ。しかし製作が遅れを重ねたためまずは総集編と完結編の冒頭のみで構成された「シト新生」を先行で公開。実際のところは「DEATH」の方も完成品とは言い難かったらしく(当時の予告編を良く見ると「未定」とか「作業中」というテロップが度々出てくる)アップグレードバージョンである「DEATH(TRUE)2」が翌年発表されています。
 今年「月一エヴァ」と称して「シト新生」から「シンエヴァ」までの6本の劇場版を約半年かけてリバイバル上映が始まりました。私としてもどちらも28年ぶりの劇場鑑賞になりました。

 物語のトピックよりも主要人物の情動をフォーカスしカットアップした「DEATH」は総集編と称しながらこれだけで物語はまず把握できません。TVシリーズを観ていてもまず置いてけぼりにされるレベルで全くの初見では着いていくことも出来ないでしょう。しかしその衝動性は強く伝わります。
 完結編である「Air/まごころを、君に」も生きる意志を見失ってほぼずっとうずくまってるシンジ君に最後にして最大の重圧がのしかかり破滅的なカタストロフへ直進する超ダウナーな展開で、心に余裕が無いとちょっと厳しい映画です。恐らくは過熱したブームがもたらす完結編への異常な期待や重圧、ファンたちのフィクションへの過度な依存への忌避感などが庵野秀明監督の中にあったかもしれません。風刺というよりかなり観客へ直接的に説教しているような印象すらあります。厄介なのがそうやって自分たちへ痛罵してくる相手が自分たち以上に心身すり減らして血を吐いてるように思えてしまうことでしょうか。当時の自分には居心地悪い作品で、特に「Air/まごころを君に」の方は鑑賞後ちょっとイラつきながら映画館を後にしたことを思い出します。

 あれから30年近く経ち年齢を重ねて当時の自分も生々しい思い出もある程度客観視できるようになった今再見する機会を得たのも不思議な気分です。ただ今観ると物語がどうこうとかとは別に1〜2フレームしか見せないショットを大量に重ねてくる終盤のあるシーンが目がチカチカし過ぎてちょっと辛い、とかそういうものの方が強くなってしまってこれが老いというものか(苦笑)

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今月から日曜夜9時で放送が始まったドラマ「ロイヤルファミリー」が最高に面白い。競走馬の馬主でもある人材派遣会社社長に関わることになった税理士を主人公に、競馬に携わる者の生き様を描き、シビアところとロマンを両立させながら熱い物語を展開させて引き込まれます。レースシーンもかなりの迫力。何なら武豊や戸崎圭太ら現役ジョッキーやウマ娘でオグリキャップを演じる高柳知葉がカメオ出演してるサービス精神旺盛ぶりも楽しい。

 こんばんは、小島@監督です。
 スケジュール的には実際の有馬記念当日に最終回放送ということになるのかしら。「ウマ娘シンデレラグレイ」の第2クールに秋のG1戦線と合わせて年内の日曜日は競馬漬けになりそう。

 さて、今回の映画は「七人の侍」です。

 戦国時代、相次ぐ野武士の襲撃に窮した百姓たちは防衛の為に侍を雇うことを決意する。代表として街へ出た利吉(土屋嘉男)たちだったが日々の食事が提供される以外に栄誉も褒賞も無い仕事を引き受ける者などなかなか現れない。そんなある日、利吉たちは野盗に人質にされた幼子を機転を利かせて救出した勘兵衛(志村喬)という名の侍と出会う。勘兵衛ならばと頼み込む利吉たち。熟慮の末に勘兵衛は引き受けた。40騎はいようかという野武士たちを制するには7人は必要と考えた勘兵衛は仲間を探し始める。やがて七郎次(加東大介)、久蔵(宮口精二)、菊千代(三船敏郎)ら個性的な顔触れが揃い、一行は村へと向かった。

 「七人の侍」は1954年に製作され巨匠黒澤明監督の代表作というだけでなく後続に多大な影響を与えて日本や世界の映画史上極めて重要な位置付けの存在となった作品です。ジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグ、宮崎駿は元より「NARUTO」や「ONE PIECE」「鬼滅の刃」でさえその影響下にあると言っても過言ではないほどです。クラシックの名作たちをシネコンで上映する企画「午前十時の映画祭」でも何度もラインナップに入る定番のプログラムでしたが、今回新たに4Kリマスター版が製作され「午前十時の映画祭」特別企画としてのロードショーが行われています。
 DVDなどで何度か観たことがあるのですが今回ようやくスクリーンでの鑑賞が叶いました。

 70年という時間の経過をものともしない圧倒的鑑賞体験。
 封建的な秩序の終焉で理念が空洞化した中での侍の矜持、貧困と強奪に窮しながらも強かに生きる農民たち、個性的なキャラクターたちのアンサンブルの中で見えるヒューマニズムはこれが製作されたのが戦後からまだ10年も経っていない時期ということも考慮するとなおさら響くものがあります。当時としては珍しい、一つのシーンを複数のカメラで同時撮影する「マルチカム撮影」とそれで得た映像素材を最大限活かしてみせた編集がもたらすダイナミズムに裏打ちされたアクションの生々しい迫力も引き込まれるよう。

 また、今回の4Kリマスターは非常に丁寧に行われたようでモノクロなのに板の木目も分かるほど映像が高精細になっている上、DVD等で収録されているものは何ヶ所かセリフが聞き取りにくい箇所があったのですがそれも無くなって全てがクリアになっています。シナリオを読むか魂で聴き取るしかなかった三船敏郎の叫びが容易く!何とありがたい!

 古いしモノクロだし時代劇だし207分と長い(途中休憩あり)しでハードル高いのは確かですが、文句など付けようがない傑作。観てみると妙に見覚えのあるやり取りや聞き覚えのあるセリフがちょくちょく出てくるような気がするのはその原点がここにあるから。最高の状態で触れられるこの機会に、是非多くの方にご覧になって欲しいですね。

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少し前から平日早朝にTVドラマ「あぶない刑事」が再放送されていて、それを録画して夜に観るのが最近の楽しみ。1980年代を代表するドラマの一つですが、今に至るまで全く観たことがなくどこかで一度観てみないとなぁと思っていたので渡りに船。ただ40年近く前のドラマを今観ると面白さより別のところに目が行ってしまいます。まだ再開発前でみなとみらいも無い横浜の風景や今とは違う形やデザインのボトルやラベルをした酒瓶などがとても興味深く映ります。もちろん今とは全く安全基準の異なるデインジャーなスタントにも驚きますが(笑)。あんなの毎回やってたとか凄過ぎる。

 こんばんは、小島@監督です。
 一通り観終わったら映画の方にも手を付けてみよう。

 さて、今回の映画は「ファイナル・デッドブラッド」です。

 大学生のステファニー(ケイトリン・サンタ・フアナ)は、毎夜見る自分や家族が悲惨な死を遂げる悪夢に悩まされていた。成績も下がり奨学金も打ち切られそうになったステファニーは、これがただの悪夢ではないと確信し手がかりとなる人物を探し始める。やがてステファニーは50年以上に渡って死神による「死の連鎖」が続いていることを知り、自身と家族に迫る「死の運命」と対峙することになる。

 予知夢によって事故を回避した若者たちが、死神によってもたらされる逃れられない死の運命に巻き込まれ無惨な死を遂げるホラー「ファイナルデスティネーション」は2000年〜2011年までの間に5本のシリーズが製作された、00年代を代表するホラーシリーズです。1作目ではまだそれほどではありませんでしたが2作目「デッドコースター」以降は「死のピタゴラスイッチ」と表現される、こんなの良く思いついたな、そしてこんな死に方は絶対にしたくない感心するほどのユニークかつパズル的な流れで登場人物が惨殺されるのがパターンとなっていきました。
 怖いと不謹慎な笑いが同居する作風が支持されたシリーズでしたが2011年製作の「ファイナル・デッドブリッジ」を最後にシリーズは途絶えていました。今回実に14年ぶりの新作です。本国ではシリーズ最高興収と評価を叩き出しながらも日本では当初配信のみとなる予定でした。しかし「ミーガン2.0」が本国での不評から配信スルーへ切り替えられて公開中止となってしまい、その空いた穴を埋めるような形で急遽公開となりました。

 設定的に全作を繋ぐように作られており、シリーズとしてのスタイルは堅持しながらも旧作との繋がりは匂わせる程度に抑えていてこれ単体でも十分に楽しめるようになっているその塩梅が絶妙。初見さんでもシリーズの魅力を最大限に感じられるようになっています。
 登場人物の死のバリエーションも実に多彩。そして上手い具合にフェイントをかけてリズムをずらしてくるのでマンネリズムを楽しむ作品なのに予想がつかないという面白さがあります。また今作は何気ない日常のひとコマを最高に不穏に見せることに対して天才的。ちょっと笑えてしまうくらいです。初めて観る方にはかなり新鮮に映るのではないでしょうか。

 また、大半の作品に登場しシリーズのナビゲーター的キャラクターとも言えるブラッドワースは今作も登場。同時に彼を演じた名優トニー・トッドの遺作ともなりました。出演時既に末期癌を患っていて明らかに悪い痩せ方をしているのですが、短い登場ながら映画に一本芯を通す存在感を放っています。このシーンのおかげで悪趣味なB級映画という枠に押し込めるには惜しい風格が宿っています。とは言っても盛大に腕とか首とか血飛沫とか飛ぶ映画なのでそういうのが苦手な方には一切お薦めしませんが(笑)

 緊急公開となった今作、事前の宣伝も少なく公開規模も全国20館程度と小さいながらも各上映館の入りは上々で観客評も高いようなのが嬉しいところ。ここ数年洋画はいくつかの例外を除いて斜陽も良いところで海外で評判が良くてもスクリーンにすらかけられないことも増えてきてしまっています。実写邦画とアニメが好調とは言えそれしかヒットしていないという状況はあまり健全とは言えません。今作の好調が次へ繋がる布石となると良いのですが。

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昨日の歌会に参加された皆さん、お疲れ様でした。
 今回は入った部屋の人数が少なかったので、ま〜たくさん歌えました。滅多にやらない曲を引っ張り出したり楽しかったですね。今回初参加の方も楽しんで頂けてたなら嬉しいですね。

 こんばんは、小島@監督です。
 しかしここ5年くらいの曲のレパートリーが少ない自覚があるのでちょっと意識的に増やせるようにしたいかも。

 さて、今回の映画は「宝島」です。

 1952年沖縄・コザ。米軍基地から奪った物資を住民に安く分け与えたり裏社会へ流したりする「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。リーダー格のオン(永山瑛太)を筆頭にグスク(妻夫木聡)、レイ(窪田正孝)、ヤマコ(広瀬すず)らのグループはある時基地内で米軍に包囲され散り散りになって逃走した。その最中、「予定に無い戦果」を得たらしいオンはそこで消息を絶った。
 数年後、グスクは刑事に、ヤマコは小学校の教師に、レイはヤクザとなってそれぞれオンの行方を探しながら日々を過ごしている。そんな中でコザでは米兵による暴行傷害事件が相次ぎ住民たちの反米感情が高まりつつあった…

 1952年と言えばサンフランシスコ講和条約が発効し日本は独立を回復。しかし沖縄は未だアメリカ占領下。1972年に日本へ返還されるものの現在に至るもなお歪な状況が続いています。映画は1人の男の失踪を機に人生が変わった3人の男女の運命を縦軸としつつ1952〜1972年までの20年間に起きた頻発する米兵による暴行やレイプ事件だけでなく宮森小学校米軍機墜落事故(1959年)、嘉手納基地VXガス漏えい事件(1969年)などの主要事件を網羅した重厚な大河ドラマとなっています。
 太平洋戦争以前から続く日本本土の関係性を思うと100年以上に渡り日米両国から搾取され抑圧され続けた消えない「痛み」の切実さをこれほどスクリーンに焼き付けた映画も少ないのではないでしょうか。

 まるで本当に1950年代の沖縄に観客を放り込むような非常に作り込まれた画面に加えてセリフの大半はがっちり監修の入ったウチナーグチになっているのも大きな特徴で、私には正直なところ3分の1くらい何言ってるか分からなかったのでできれば字幕を入れて欲しい思いもありましたが(笑)、分からなくても俳優たちの演技が「激情」を伝えてくれるので外国映画を字幕無しで観るようなことにはならないはずです。むしろその「分からなさ」こそが迫力を生み出すことに一役買っています。というか妻夫木聡にしろ窪田正孝にしろ沖縄出身者ではないのにちゃんとウチナンチューに見えるのはさすがです。

 鬱積した怒りが沸点に達したように、映画のクライマックスでは1970年に起きたコザ暴動が描かれます。ニュース映像でお茶を濁さず劇映画として余さず作り上げてみせたこのシークエンスの異様とも言える迫力はまさに白眉。予算の注ぎ込み方が正しいと言うべきか、今の日本映画でこんな映像作れるとは思ってなかったくらいの圧巻の映像が展開します。

 欠点はと言えば非常に濃密でこれ以上削れるところも無いとは言え191分ノンストップは流石に長すぎる点です。今回たまたま通路沿いの座席だったのですが何度と無く中座してトイレに立つ観客が前を通って行ったのでここまで長いならもうちょっと上手く編集して途中休憩を入れて欲しかった。
 ただそうは言っても戦後80年という節目、そして冷戦終結後かつてないほど世界的緊張が高まっている現在にこの映画が公開されている意義は決して小さくありません。「歴史を知る」、その入り口として極めて優れた一本です。
 私たちはこの物語の地続きの先に生きている。

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日本時間では昨夜11時頃にフランス・パリで開催された「凱旋門賞」、ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。レースの結果とは別にしてちょっと面白かったのがフランスが配信している映像の中に府中の東京競馬場でのパブリックビューイングの模様がインサートされていたところ。フランス競馬における日本の立ち位置ってどうなってるんだw

 こんばんは、小島@監督です。
 そう言えば7月に開催されたパリ大賞典ではCygamesがメインスポンサーになったりしていたし半世紀以上も執念深く凱旋門賞に挑み続けているしでちょっと無視できないのかもしれませんね。

 さて、今回の映画は「ワン・バトル・アフター・アナザー」です。

 ボブ(レオナルド・ディカプリオ)はかつては世を騒がせた革命家であったが、闘争の末に妻ペルフィディア(テヤナ・テイラー)を失って十数年後、今は愛娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)と共に静かに暮らしていた。しかしある時からウィラが執拗に狙われるようになってしまう。白人エグゼクティブで構成される極右組織への加入を望む軍人ロックジョー(ショーン・ペン)がウィラが自身とペルフィディアとの子どもである可能性を疑い拉致しようとしていたのだ。持ち得る権力を振りかざして執拗にウィラを追跡するロックジョーに、ボブとウィラは徐々に追い詰めらていく。

 1920年代の石油業界を舞台に欲望に溺れる人間たちを描いた「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」や一見すると無関係に思える男女の24時間を描く群像劇「マグノリア」などで評価を集め、カンヌ・ベルリン・ベネチアの三大国際映画祭で受賞経験を持つ巨匠ポール・トーマス・アンダーソン。その新作は、かつての感覚も錆びついた頃に窮地に陥りテンパっちゃうオヤジと執拗に追い詰める変態軍人とが狂気のチェイスを繰り広げる逃走劇です。ストーリーの密度に加えてアイディアとバリエーション豊かなアクションシークエンス、それを支える見事なカメラワークと編集の妙が加わり先の読めないツイストに観客を引きずり込みます。

 娘のために文字通り転がりながら奔走するイマイチ冴えないオヤジを演じるレオナルド・ディカプリオと変態的性癖が自分の野心の障害になったばかりにあらゆる手を尽くして排除しようと追う軍人役にショーン・ペンという2人の名優の演技を観ているだけでも楽しいところに何故かボブを気前よく助けてくれる空手道場の「センセイ(先生)」役ベニチオ・デル・トロが加わり、更にボブの娘ウィラ役の新星チェイス・インフィニティがディカプリオら名優たちに負けない演技で張り合って見せて160分時間いっぱい楽しませてくれます。

 なかなか味わい深いのがロックジョーやペルフィディアと言ったイかれた人間と深く関わってしまったとは言えボブ自体は「イカれようとしたけどイカレられなかった」人間として描かれているのが特徴的で、感情的になっても変にキレるところまで行かない、知恵が回ってもヒーローにはなり切れない、ボブのどことない凡庸さをディカプリオが見事に体現しています。レオナルド・ディカプリオ、その風貌で長らく二枚目であり続けてましたが円熟して壮年期に差し掛かって来たここ数年は性格俳優としての色が強くなってきました。どこか名優ジャック・ニコルソンを思わせるキャリアと貫禄が付いてきて、今後どんな映画でどんな役柄を演じるのか、楽しみですね。
 
 極左組織の革命闘争を発端にして極右組織も闘争に絡んでくるのでそう言ったものの縮図が見て取れるものかと言えばそうではなくむしろ自己顕示欲が強すぎる愚者が人を動かせる権力を持ち得てしまうことのおぞましさを描いている作品ですが、そこそこ前から準備している作品だというのに見事なまでに昨今の情勢に対する強烈な風刺とアイロニーになっていて、結果的にかなりの激辛な寓話になっています。

 キレッキレの演出が160分続く、癖も強いながら娯楽性と社会性が共にトップスピードなジェットコースターの如き傑作です。秋の入り口に差し掛かったところで凄いのが現れました。「スピルバーグが3回観た」もこれは誇張ではないかも。クライマックス、圧巻のカーチェイスにどうぞ痺れてください。

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