ちゅうカラぶろぐ


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年明け最初の大きな買い物、というと少々大袈裟ですが、眼鏡を新調しました。ついでに今使っている眼鏡のレンズもコーティングが弱くなってきたので交換を依頼。トータルで10万を超すなかなかの出費ですが、私みたいに視力の弱い人間にとってアイウェアは日常生活の質に直結するのでケチるわけには行かないのです。

 こんばんは、小島@監督です。
 度が強い分レンズの手配に時間がかかるので新しい眼鏡を装着して歌会に行けるのは来週の日曜ではなくその次の回になるかも。

  さて、今回の映画は「家(うち)へ帰ろう」です。

 ブエノスアイレスに住む仕立て屋の88歳のアブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は、子供や孫に囲まれ家族写真を撮ってもその顔は冴えない。翌朝には娘たちの手で住み慣れた家を引き払い養護施設へ入ることになっていたからだ。
 家族を強引に帰し1着だけ残されたスーツを見たアブラハムはある決意をする。それは祖国ポーランドに住む70年以上会っていない親友に自身が仕立てた最後のスーツを届けに行く事だった。深夜、身支度を整えたアブラハムは家の鍵を玄関わきの植え込みに投げ捨てて旅に出た。タクシーを拾い、旧友のつてを頼って航空券のチケットを手配したアブラハムは飛行機に乗り込んだのだった。

 ある老人の遠い日の約束を果たすための旅路を描くロードムービー。アルゼンチンの映画監督パブロ・ソラルスが自身の祖父の体験から着想を得て作り上げたというこの作品は、世界各地の映画祭で高い評価を得ました。
 偏屈そうなお爺さんが老人ホームへ移されるのを嫌がって旅に出る、というイントロはどこか「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009年製作)を思い起こさせますが、祖国ポーランドの名を口にする事すらできないほどアブラハムの心の奥底に刻まれているホロコーストの記憶が、アブラハムのこの旅が決して逃避ではないことを見せていきます。

 自分の娘たちが施設に入れてしまおうとしている一方で、旅路の途中でアブラハムを手助けすることになる3人の女性たちの姿がまた不思議な印象を残します。敢えてどんな人物かはここでは書きませんが、3人とも強いアイデンティティの持ち主であることが自身のルーツへと向かおうとしているアブラハムの旅路に手を差し伸べるというのはどこか文学的な示唆を感じます。

 物語をより深く理解するに当たり、アブラハムの故郷であり目的地であるポーランドの「ウッチ」という街についても少し語っておいた方が良いでしょう。ウッチは19世紀から共産主義体制が崩壊する1990年ごろまで繊維産業が盛んだった街で、アブラハムが仕立て屋であるという設定もここで活きてきます。また、ポーランドにおける映画教育の名門で、「灰とダイヤモンド」(1958年製作)のアンジェイ・ワイダや「戦場のピアニスト」(2002年製作)のロマン・ポランスキーなどを輩出したウッチ映画大学があり、ポーランド映画産業の中心となっている街でもあります。パブロ・ソラルス監督はこの辺りを踏まえて意図的にウッチをロケーションに選んだのでしょう。

 原題の「El ultimo traje(訳して「最後のスーツ」、それゆえ英語圏では「The last suits」としてリリースされています)」に対して「家(うち)へ帰ろう」という邦題もなかなか良いセンス。苦いような、それでいて不思議と愛しいような、不思議な感慨を湧き起こさせる一本。決して派手な作品ではありませんが、深く心に染み入ってくる逸品です。どうぞこの偏屈でユニークなお爺ちゃんのちょっぴり予測不能なこの旅路を楽しんでみてください。

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