こんばんは、小島@監督です。
去る7月28日、1軒の映画館が閉館しました。
「名古屋シネマテーク」。開館は1982年。名古屋のミニシアターとしては最古参の映画館でした。前身は倉本徹氏が代表を務めていた自主上映サークル「名古屋シネアスト」、ホールでの貸切上映を続けていたシネアストが常設の映画館として今池スタービルに居を構えたのが始まりです。
独自の選別眼で他に類を見ないラインナップで上映を続けて来た映画館で、最後の年となった今年に入ってもジャン=リュック・ゴダールや原一男と言った監督の特集上映が組まれたほか、シネコンではあまりお目にかかれないジョージアやハンガリーなど東欧諸国、イスラム語圏の映画の特集企画を度々組んで来ました。1998年に日本公開されインド映画の知名度を飛躍的に向上させた「ムトゥ踊るマハラジャ」を東海地方でいち早く紹介したのもシネマテークです。
積極的に舞台挨拶が行われ、映画と観客の距離感が近い映画館でもありました。私も「港町」の想田和弘監督など、何度か観させてもらいました。来日していたイランの巨匠アッバス・キアロスタミが唐突に来場してその場で舞台挨拶が組まれた、なんてこともかつてあったようです。
館内の至るところに貼られたサイン色紙。中には庵野秀明のものも。
年に一度自主映画の集中上映を行なって来た映画館でもあり、「何でも持って来い!」と題して持ち込み作品を無審査でそのまま上映する企画も行われ、無名時代の園子温や黒沢清、沖田修一らの作品が上映されたこともあったと聞きます。
写真はありませんが、倉本徹氏が収集した映画に関する書籍や資料を配架した私設の図書館が併設されていました。閲覧は自由、有料ながら貸出しも行なっていました。3,000点はあろうかというそれらの書籍のほとんどは群馬県にあるミニシアター「シネマテークたかさき」が引き継ぐそうです。
堅い映画ばかりでなくB級の魅力溢れる「サイコ・ゴアマン」、アンソニー・ホプキンス主演のサスペンス「ハイネケン誘拐の代償」、韓国ホラーの俊作「コンジアム」などエンターテインメントも幅広く上映。この硬軟織り交ぜたラインナップの懐の深さが魅力でした。会員になると翌月の上映作品の紹介とタイムテーブルを載せた「シネマテーク通信」が送られてきて、毎月コレが届くのが結構楽しみでした。
アニメ映画の上映も多く行われ、私が初めてここで観た映画も「鉄人28号白昼の残月」でした。日本の作品だけでなくユーリ・ノルシュテイン、ヤン・シュヴァンクマイエル、ミッシェル・オスロなど海外の作家の作品も数多く紹介してくれました。
最後にシネマテークに訪れた日に観たのは2本。
1本目は「ロング・グッドバイ」、ロバート・アルトマン監督が1973年に発表した、レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」を大胆に翻案した作品です。原作の寡黙さを無視し象徴とも言えるギムレットも出て来ませんが、軽妙な語り口がクセになる作品で松田優作はこの映画からインスパイアされて「探偵物語」を生み出したことで知られています。こんな軽やかなフィリップ・マーロウも悪くない。
2本目は「世界が引き裂かれる時」、2022年にウクライナ・トルコの合作として製作された作品です。シネマテークでの最後の新作として上映されました。2014年にウクライナで起きた旅客機撃墜事件を背景に、ロシアとの国境付近で住む夫婦の日常が紛争に侵食されていく様を描きます。ロシア・ウクライナ紛争最前線の息詰まる空気感が反比例するように美しい映像の中で描き出され、観る者の魂に刻みつけてきます。
実は閉館後に一度立ち寄りました。来週以降の上映予定のボードに何も貼られていないのが寂しさをいやます。
シネマテークに行くようになるまで、映画好きとは言いながらただ一時の娯楽として観ているに過ぎなかったように思います。シネコンよりずっと映画との距離が近い場所で、時に寝落ちしてしまうこともありましたが(苦笑)、ここで映画と向き合う楽しさと深入りする面白さを学ばせてもらいました。どれだけ感謝しても足りないくらいです。この寂しさを埋められるような映画館は現れないかもしれません。
シネマテークでの映画帰りに立ち寄る事が常だった書店「ちくさ正文館」も先月31日に閉店。自分の好きだった場所が相次いで無くなってしまい、この喪失感はちょっと上手く言い表せないくらい。
ただ、映画ではテークで上映を予定していた作品をシネマスコーレが一部引き継いで上映するらしいことや、大須シネマが2番館としての立ち位置は保持しながらも新作も上映出来るように準備していたり、書店の方も今池のウニタ書店や金山のTOUTEN BOOKSTOREのように独自のこだわりで書籍を販売する、大手チェーンとは一線を画すショップが各所に出てきたりと、決して消えるに任せたりしない動きを見せてくれているところに一縷の希望を感じています。これらの場所がこれから先も長く続いてくれる事を願って止みません。
シネマテークもちくさ正文館も、長い間お疲れ様。そしてありがとうございました。
去る7月28日、1軒の映画館が閉館しました。
「名古屋シネマテーク」。開館は1982年。名古屋のミニシアターとしては最古参の映画館でした。前身は倉本徹氏が代表を務めていた自主上映サークル「名古屋シネアスト」、ホールでの貸切上映を続けていたシネアストが常設の映画館として今池スタービルに居を構えたのが始まりです。
独自の選別眼で他に類を見ないラインナップで上映を続けて来た映画館で、最後の年となった今年に入ってもジャン=リュック・ゴダールや原一男と言った監督の特集上映が組まれたほか、シネコンではあまりお目にかかれないジョージアやハンガリーなど東欧諸国、イスラム語圏の映画の特集企画を度々組んで来ました。1998年に日本公開されインド映画の知名度を飛躍的に向上させた「ムトゥ踊るマハラジャ」を東海地方でいち早く紹介したのもシネマテークです。
積極的に舞台挨拶が行われ、映画と観客の距離感が近い映画館でもありました。私も「港町」の想田和弘監督など、何度か観させてもらいました。来日していたイランの巨匠アッバス・キアロスタミが唐突に来場してその場で舞台挨拶が組まれた、なんてこともかつてあったようです。
館内の至るところに貼られたサイン色紙。中には庵野秀明のものも。
年に一度自主映画の集中上映を行なって来た映画館でもあり、「何でも持って来い!」と題して持ち込み作品を無審査でそのまま上映する企画も行われ、無名時代の園子温や黒沢清、沖田修一らの作品が上映されたこともあったと聞きます。
写真はありませんが、倉本徹氏が収集した映画に関する書籍や資料を配架した私設の図書館が併設されていました。閲覧は自由、有料ながら貸出しも行なっていました。3,000点はあろうかというそれらの書籍のほとんどは群馬県にあるミニシアター「シネマテークたかさき」が引き継ぐそうです。
堅い映画ばかりでなくB級の魅力溢れる「サイコ・ゴアマン」、アンソニー・ホプキンス主演のサスペンス「ハイネケン誘拐の代償」、韓国ホラーの俊作「コンジアム」などエンターテインメントも幅広く上映。この硬軟織り交ぜたラインナップの懐の深さが魅力でした。会員になると翌月の上映作品の紹介とタイムテーブルを載せた「シネマテーク通信」が送られてきて、毎月コレが届くのが結構楽しみでした。
アニメ映画の上映も多く行われ、私が初めてここで観た映画も「鉄人28号白昼の残月」でした。日本の作品だけでなくユーリ・ノルシュテイン、ヤン・シュヴァンクマイエル、ミッシェル・オスロなど海外の作家の作品も数多く紹介してくれました。
最後にシネマテークに訪れた日に観たのは2本。
1本目は「ロング・グッドバイ」、ロバート・アルトマン監督が1973年に発表した、レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」を大胆に翻案した作品です。原作の寡黙さを無視し象徴とも言えるギムレットも出て来ませんが、軽妙な語り口がクセになる作品で松田優作はこの映画からインスパイアされて「探偵物語」を生み出したことで知られています。こんな軽やかなフィリップ・マーロウも悪くない。
2本目は「世界が引き裂かれる時」、2022年にウクライナ・トルコの合作として製作された作品です。シネマテークでの最後の新作として上映されました。2014年にウクライナで起きた旅客機撃墜事件を背景に、ロシアとの国境付近で住む夫婦の日常が紛争に侵食されていく様を描きます。ロシア・ウクライナ紛争最前線の息詰まる空気感が反比例するように美しい映像の中で描き出され、観る者の魂に刻みつけてきます。
実は閉館後に一度立ち寄りました。来週以降の上映予定のボードに何も貼られていないのが寂しさをいやます。
シネマテークに行くようになるまで、映画好きとは言いながらただ一時の娯楽として観ているに過ぎなかったように思います。シネコンよりずっと映画との距離が近い場所で、時に寝落ちしてしまうこともありましたが(苦笑)、ここで映画と向き合う楽しさと深入りする面白さを学ばせてもらいました。どれだけ感謝しても足りないくらいです。この寂しさを埋められるような映画館は現れないかもしれません。
シネマテークでの映画帰りに立ち寄る事が常だった書店「ちくさ正文館」も先月31日に閉店。自分の好きだった場所が相次いで無くなってしまい、この喪失感はちょっと上手く言い表せないくらい。
ただ、映画ではテークで上映を予定していた作品をシネマスコーレが一部引き継いで上映するらしいことや、大須シネマが2番館としての立ち位置は保持しながらも新作も上映出来るように準備していたり、書店の方も今池のウニタ書店や金山のTOUTEN BOOKSTOREのように独自のこだわりで書籍を販売する、大手チェーンとは一線を画すショップが各所に出てきたりと、決して消えるに任せたりしない動きを見せてくれているところに一縷の希望を感じています。これらの場所がこれから先も長く続いてくれる事を願って止みません。
シネマテークもちくさ正文館も、長い間お疲れ様。そしてありがとうございました。
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