AmazonプライムやNetflixなどのお陰で古今を問わず初放送では全くスルーしていた、あるいはそもそも観られる環境になかったものも観られる様になり、割と意識的に1980年代のアニメを観ています。何気に当時あまり好き放題にアニメを観られなかった反動というのもありますし、歌会で人が歌ってるのを聞いたりして「主題歌だけは知ってるけど観たことは無い」作品がかなり多いというのも動機の一つです。今は「J9シリーズ」を視聴中。「銀河旋風ブライガー」「銀河烈風バクシンガー」を完走し、あとは「銀河疾風サスライガー」を残すのみ。アイディアが今より尖っていたり、今では大ベテランと呼べるような人たちの若い時期の画風・作風に触れられたり、なかなか新鮮な発見があります。
こんばんは、小島@監督です。
あと何故か地元ローカルのぎふチャンで「めぞん一刻」の放送が始まったのでこれも結構観ています。今じゃコンプライアンス的にアウトな表現がホイホイ出てくる大らかさも実に興味深い。
さて、今回の映画は「ハッチングー孵化ー」です。
12歳の体操選手ティンヤ(シーリ・ソラリンナ)は、完璧な家庭生活のイメージをSNSを通じて発信することに躍起になっている母(ソフィア・ヘイッキラ)の期待に応えようと懸命になるあまり、自身をすり減らす日々を送っていた。
ある夜、ティンヤは奇妙な卵を見つけ、それを自室に隠し温め始めた。急速に大きくなっていく卵はやがて孵化の時を迎えた…
ホラー映画の定型の一つに少女が怪異や怪奇の中心にいるものがあります。古いところでは「キャリー」(1976年)に代表されるもので、思春期特有の心身の変容と不安定さによって引き起こされる「何か」によって自身や周囲に破局的な顛末をもたらす筋立てとなるものが多いです。洋の東西を問わず作られるこの題材に、フィンランドからユニークで奇妙な、そして忘れ難い作品が登場しました。
非常に難しい役柄の主人公ティンヤを演じたシーリ・ソラリンナはオーディションで選ばれた、これが映画初出演。オリジナリティ溢れる物語を撮り上げたハンナ・ベルイホルムも短編での実績はあるものの長編映画はこれが初めてというまさに新星の誕生を目の当たりにできる作品です。
実際のところこの映画、そもそもその「卵」が孵る前から不穏さが尋常じゃありません。「物質的に満足し、理解のある夫、聡明な息子、夢に向かって努力する娘、そしてそれらを支え応援する母親」という理想像を築き上げ世界へ発信することに躍起になる母、その「理想像」にティンヤは序盤から既に潰されかかっています。それが虚飾に過ぎないこと、ティンヤが抑制と抑圧の中で窒息しかかっているということを序盤、窓から飛び込んでくる1羽の鳥が浮き彫りにします。
ティンヤは卵を拾い温め、やがてそれが孵ると現れた奇妙な「生物」を庇護しようと奮闘します。必然その行為はティンヤの母に対しての関係性の合わせ鏡になっています。この対称性は映画全体で随所に見られます。ティンヤの自室にあるクローゼットの扉が鏡になっておりその鏡像が度々フォーカスされるショットが登場しますがそれなどはこの映画の在り方を最も象徴しているものと言えますね。
卵から孵った「生物」はある意味で母ともいえるティンヤの内に秘めた激情と共鳴し、破壊的な行動を取るようになります。それがティンヤの母の「理想像」と正面から相対する終盤、物語は意外な結末を迎えます。ここでもいくつもの「合わせ鏡」が突き付けられ、終局は重い余韻と共にいくつもの解釈を観る者にもたらすことでしょう。
どう見ても一番ヤバいのは卵から孵った生物ではなくて母親の方であり、精神的にキリキリするような展開が続くことに加え、主人公ティンヤが作中何度も吐瀉するシーンがあるなどPG12区分の割にエグい画面が多いためなかなかにキツいところがありますが観る者の感情を揺さぶる見事な逸品です。ユニークな作品を観たい方にこそお薦めしたいですね。
こんばんは、小島@監督です。
あと何故か地元ローカルのぎふチャンで「めぞん一刻」の放送が始まったのでこれも結構観ています。今じゃコンプライアンス的にアウトな表現がホイホイ出てくる大らかさも実に興味深い。
さて、今回の映画は「ハッチングー孵化ー」です。
12歳の体操選手ティンヤ(シーリ・ソラリンナ)は、完璧な家庭生活のイメージをSNSを通じて発信することに躍起になっている母(ソフィア・ヘイッキラ)の期待に応えようと懸命になるあまり、自身をすり減らす日々を送っていた。
ある夜、ティンヤは奇妙な卵を見つけ、それを自室に隠し温め始めた。急速に大きくなっていく卵はやがて孵化の時を迎えた…
ホラー映画の定型の一つに少女が怪異や怪奇の中心にいるものがあります。古いところでは「キャリー」(1976年)に代表されるもので、思春期特有の心身の変容と不安定さによって引き起こされる「何か」によって自身や周囲に破局的な顛末をもたらす筋立てとなるものが多いです。洋の東西を問わず作られるこの題材に、フィンランドからユニークで奇妙な、そして忘れ難い作品が登場しました。
非常に難しい役柄の主人公ティンヤを演じたシーリ・ソラリンナはオーディションで選ばれた、これが映画初出演。オリジナリティ溢れる物語を撮り上げたハンナ・ベルイホルムも短編での実績はあるものの長編映画はこれが初めてというまさに新星の誕生を目の当たりにできる作品です。
実際のところこの映画、そもそもその「卵」が孵る前から不穏さが尋常じゃありません。「物質的に満足し、理解のある夫、聡明な息子、夢に向かって努力する娘、そしてそれらを支え応援する母親」という理想像を築き上げ世界へ発信することに躍起になる母、その「理想像」にティンヤは序盤から既に潰されかかっています。それが虚飾に過ぎないこと、ティンヤが抑制と抑圧の中で窒息しかかっているということを序盤、窓から飛び込んでくる1羽の鳥が浮き彫りにします。
ティンヤは卵を拾い温め、やがてそれが孵ると現れた奇妙な「生物」を庇護しようと奮闘します。必然その行為はティンヤの母に対しての関係性の合わせ鏡になっています。この対称性は映画全体で随所に見られます。ティンヤの自室にあるクローゼットの扉が鏡になっておりその鏡像が度々フォーカスされるショットが登場しますがそれなどはこの映画の在り方を最も象徴しているものと言えますね。
卵から孵った「生物」はある意味で母ともいえるティンヤの内に秘めた激情と共鳴し、破壊的な行動を取るようになります。それがティンヤの母の「理想像」と正面から相対する終盤、物語は意外な結末を迎えます。ここでもいくつもの「合わせ鏡」が突き付けられ、終局は重い余韻と共にいくつもの解釈を観る者にもたらすことでしょう。
どう見ても一番ヤバいのは卵から孵った生物ではなくて母親の方であり、精神的にキリキリするような展開が続くことに加え、主人公ティンヤが作中何度も吐瀉するシーンがあるなどPG12区分の割にエグい画面が多いためなかなかにキツいところがありますが観る者の感情を揺さぶる見事な逸品です。ユニークな作品を観たい方にこそお薦めしたいですね。
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