ちゅうカラぶろぐ


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年度末決算セールで安くなっているこの機会にと、冷蔵庫を買い替えました。今使ってるものがまだまだ使えるとは言えだいぶ古くなってガタも来始めていましたし。というか本当に長く使って来たよなと型番から製造年を調べてみたら2000年製。四半世紀も使ってました。ウチの物持ちが良いのか昔の家電が頑丈なのか。

 こんばんは、小島@監督です。
 そう言えばかつて使ってた洗濯機はほぼ30年使い込んでたっけな…

 さて、今回の映画は「パリに咲くエトワール」です。

 1912年パリ。画商を始めた叔父・若林忠(声・尾上松也)を頼りに家族の反対を押し切り絵の勉強のためにやって来た継田フジコ(声・當真あみ)。ある日、若林共々トラブルに巻き込まれたフジコを助けたのは、パリで薙刀道場を開く園井家の娘・千鶴(声・嵐莉奈)だった。家族には内緒で千鶴がバレエを夢見ていることを知ったフジコは、同じアパルトマンに住むルスラン(声・早乙女太一)の母オルガ(声・門脇麦)が元プロのバレエダンサーであることを聞きつけ、千鶴とオルガを引き合わせることにするが。

 素晴らしい作品です。まだ春先ですが、アニメーション映画としては今年を代表する作品になるかもしれません。脚本に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の吉田玲子、キャラクターデザインに「コクリコ坂から」の近藤勝也、監督に「コードギアス」の谷口悟朗と言った錚々たる顔触れで1910年代のパリに生きる少女達を生き生きと描き上げます。実は企画が立ち上がったのは2017年、谷口悟朗監督にとっては「ONE PIECE FILM RED」よりも前、もっと言えばコロナ禍よりも前だそうで9年という時間を費やした労作です。
 時代考証、バレエ監修だけでなく殺陣やメカの作監までいる作画陣が類稀な情熱と技量を注ぎ込んでおり、全編に渡り丁寧な芝居をしていることに加えて薙刀VSフランスの棒術ラ・キャンという極めて稀な殺陣が見られるなど充実の映像が楽しめます。

 1912年のパリと言えば、1900年に開催されたパリ万国博覧会を一つの頂点として都市の繁栄と共に様々な文化が華開いていた時期で、「ベル・エポック(美しい時代)」と呼ばれています。絵画に目を向ければ19世紀末に勃興した印象主義がひと段落し「キュビスム(立体派)」や「フォービスム(野獣派)」と言った新たなアート・ムーブメントが起きていました。当時キュビスムに傾倒していた20世紀を代表する画家の1人であるパブロ・ピカソがモンパルナスに移って来たのもこの時期です。恐らく主人公フジコのモデルになった人物であろう画家・藤田嗣治(レオナール・フジタ)が渡仏したのもほぼ同じ頃。藤田嗣治は2つの世界大戦に翻弄されながらも画家として大成し、幅広い交友関係と共に愛多き人生を歩むことになります。
 バレエの方はと言えば実のところ千鶴が憧れているパリ・オペラ座バレエはこの頃は衰退期。帝政ロシアで総合芸術プロデューサーを務めていたセルゲイ・ディアギレフがパリに常設のバレエ団「バレエ・リュス」を立ち上げ「牧神の午後」「春の祭典」と言った演目でスキャンダラスな騒ぎを起こしたりしつつも最先端を走っていました。このバレエ・リュス出身であったバレリーナ、アンナ・パヴロワが自前のバレエ団「パヴロワ・カンパニー」を立ち上げたのがこの時期です。アンナ・パヴロワは1922年に全国8都市を回る訪日ツアー公演を行い日本にバレエを普及させるきっかけを作りました。
 また、「バレエ」「絵画」「ジャポニズム」「パリ」と言えば忘れてはならない画家エドガー・ドガもこの時まだ存命中。もっとも最晩年を迎えてかつての従軍経験による病気で視力が衰えつつあり、絵筆の代わりに塑像や彫刻などを製作していたとされています。
 一方でヨーロッパを不穏な影が覆いつつあり、1914年にいわゆる「サラエボ事件」をきっかけに第一次世界大戦へと突入していきます。その余波はフランスにも届き、男たちが徴兵されて少なくなってしまった結果、皮肉にも女性の社会進出が進んだ時代でもあります。フジコと千鶴がパリを駆け巡っていたのはこういう時代です。

 時代背景を非常に良くリサーチしていますが舞台装置以上には前面に出てこないのがポイント。歴史大河ロマンではなくあくまで夢と自由の街パリでのフジコと千鶴の挑戦という主軸からは外れません。リサーチした情報を画面に反映させるに当たり極めて精密に取捨選択されており、そうしているが故に観る者が観れば密やかでありながらも強烈な情報量を持っているのが分かるのが特徴です。

 物語は前半はポジティブかつアクティブなフジコが主体となって動かしているように見えるものの、やがて千鶴の方が前面に出て来ます。千鶴の方が目に見えて分かりやすいハードルとそれに対する葛藤と挑戦が描かれ、一見するとフジコは次第に主線から一歩引いたような状態になります。ここにこの映画の面白さと凄みがあります。この状態から後半明らかになるフジコの葛藤の正体には、共感できてしまう人も多いのではないでしょうか。
 更に言えばフジコと千鶴を取り巻く登場人物たちも実に魅力的で僅かな登場でもその奥に眠る「ドラマ」を感じさせてくれる造形をしており、豊かなディテールと合わせて言うなれば「無限に味がする」映画です。

 エンドクレジットまでぎっしりとアニメを観る楽しさに満ちた珠玉の逸品。これをスクリーンで味わえることの何と幸福なことでしょう。パリの街角が、あなたの訪れを待っています。

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