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ちゅうカラぶろぐ


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お盆休みに入りましたが強めの雨が降り続いていて必要な買い物を済ませる以外は出かけたりせずにほぼ引きこもり状態。たまにはこんな時間も良いですね。深刻な大雨ではないからこんなこと言えますが、数年前の身動き取れなくなるほどの降り方されたらさすがに怖い。九州で被害に見舞われていれる方々のご無事を祈ります。

 こんばんは、小島@監督です。

 さて、今回の映画は、特集上映「EU FILM DAYS 2025」より「FLEE/フリー」です。

 アフガニスタンで生まれ育ったアミンは共産主義体制下で父を当局に連行され、その後はムジャヒディンの侵攻による首都カブールの陥落から辛くも逃れる形で国を脱した。約20年後、彼は公的には内戦で家族を皆殺しにされただ1人デンマークへ流れ着いたことになっている。そこに至るまでにアミンの身に何があったのか。友人である映画監督ヨナス・ポヘール・ラスムセンに、アミンは自身の半生を語り出す。

 アイドルマスター765オールスターズのライブを観に横浜へ行こうとしていたその前日、仕事帰りの電車が大雨で運転見合わせになって足止めを食ってしまい、横浜行きの準備も全くできていない焦りもある中で再開までの時間を潰そうと入ったナゴヤキネマ・ノイでちょうど上手くタイムテーブルがハマっていたのがこの映画でした。2021年の作品で、翌2022年に日本でもロードショーされましたがその頃は観れずに終わってしまった一本が、全く思いもかけない形で機会が巡って来ました。

 アニメーションという媒体が持つ意外なほどの強みを感じさせてくれる作品です。基本的に映画は映画監督ラスムセンがアミンにインタビューし、彼の半生を聞き取る形で展開します。当時のニュース映像のフッテージなど実写映像も多く使われていますが大半はアニメーションで語られます。過酷な内容故に実写では凄惨になり過ぎることもアニメであればそれを抑えることができ、なおかつ感情移入もしやすくなるように思われます。比較的シンプルな描線で枚数も決して多くない今作はビジュアルに抑制が効いていながらも温かみがあり、主役であるアミンの「語り」を邪魔していません。そして何より今作に限って言えば全てが明らかにされれば「法」の庇護を失ってしまうアミンや関係者たちの身体と生命の安全を図れるというのが最大のメリットでしょう。こう言った方向でアニメーションを最大限活用している作品は初めて観た気がします。

 国を追われたアミンたち。しかし彼らの敵は戦争だけではない。逃げ込んだロシアでは難民として認定されず就労ビザも無いので不法滞在者扱い。ソ連から崩壊したばかりのロシアは社会機構が硬直していて彼らを助けられるほどの力は無く警官は腐敗して弾圧しながら金品をせしめて行く。どうにか脱出しようにも密航業者はそのほとんどが難民を食い物にする連中ばかり。さらに悪いことにアミンはゲイであることを自認しています。イスラム原理主義であるタリバン支配下となったアフガニスタンではアミンの生きられる場所はありません。出身国に強制送還される結末だけは何としても避けなければならない。どれだけマイルドに描かれていても息が詰まるような状況の連続です。アミンが生き抜けて来たのは彼に類稀なる力があったからではなく微かな幸運の糸をどうにか掴み取れただけに過ぎません。

 実はドキュメンタリーをアニメーションでもって語るという手法は意外なほど古いです。2008年にはアリ・フォルマンが1982年のレバノン内戦での自身の経験をもとにアニメ化した「戦場でワルツを」という作品がありますし、更に遡れば1918年に漫画家ウインザー・マッケイがイギリス船籍の客船ルシタニア号がドイツのUボートに沈没させられた、いわゆる「ルシタニア号事件」のてん末を描いた「ルシタニア号の沈没」があります。戦争やそれに翻弄された人々について語った作品が多いところに宿命のようなものを感じますね。

 まあ正直言ってライブを観に遠征しようかという前の晩に観るような映画ではないことだけは確かですが(笑)、それでも心震える一本との出会いは嬉しいものです。
 今も世界は変わっておらず、各地で哀しみが降り積もっています。だからこそ観る価値のある一本です。私は周回遅れも良いところでスクリーン鑑賞の機会を掴まえましたが、単に観るだけならAmazonプライムなどで観られます。戦争に思いを馳せる機会が増えるこの時期、こう言ったアプローチから考えてみるのもまた有意義な時間となるでしょう。

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