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ちゅうカラぶろぐ


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先月「宇宙よりも遠い場所」を完走した後、次に観たのが「僕の心のヤバイやつ」。ちょっと厨二病こじらせた少年とクラスメイトの少女との不器用な初恋を描くラブコメアニメです。主人公市川の心象描写や図書室や保健室など学校のロケーション、年中行事を使ったエピソードの組み立て方がとても上手く、とっくに錆びついて忘れ去ったと思っていた遠い昔の記憶の引き出しが開くような感覚に身悶えしたり締め付けられたり。こんな感覚に捉われるアニメも久しく無く、観ている時間もまた宝物のようでした。

 こんばんは、小島@監督です。
 「僕ヤバ」は新規カットを交えた劇場用の総集編を準備中だとか。アレを?スクリーンで?とても観たいが耐えられるかしら。

 さて、今回の映画は「ノー・アザー・ランド/故郷は他にない」です。

 ヨルダン川西岸のマサーフェル・ヤッタで暮らすパレスチナ人の青年バーセルはイスラエル軍の占領が進み隣人たちの家が取り壊されていく様をカメラで撮影し続け、世界へ発信していた。そんな彼の元へイスラエル人ジャーナリスト・ユヴァルが訪れる。自国政府の暴力的な行いに忸怩たるものを感じていたユヴァルは危険を承知でマサーフェル・ヤッタへ赴いて来たのだ。同じ思いで行動する2人はやがて友となるが、軍の破壊行為は日に日に過激さを増していく。

 イスラエルとパレスチナ、現代史においてあまりに深く憎悪と悲哀の爆心地であり続けた地で今何が起きているのか、それこそ当事者の目線で語られるドキュメンタリーです。マサーフェル・ヤッタは1967年からイスラエル占領下にある地域でありイスラエル政府は軍の訓練場の建設を決定し、また最高裁判所もその姿勢を支持したことで住民の強制移住が推し進められています。まるで真綿で首を絞めるかのように日ごと週ごとに1軒ずつ取り壊されていく家屋。時には学校のような公共の場さえ破壊されていきます。その様をパレスチナ人ジャーナリストでこの映画の共同監督の1人であるパーセル・アドラーはひたすらに撮影し続け発信を繰り返して来ました。
 井戸さえ埋められ生活を断たれていく住民たち、しかも軍の訓練場と言いながら何故かイスラエルから入植者たちが現れ住宅が建築されていく。さらには入植者たちが暴徒化して住民を襲い死者まで出る事件も発生。重大な人権侵害と侵略行為を観客は目の当たりにします。アクション映画のようにヒーローが駆けつけることは無く、ただただ理不尽に晒される姿が捉えられています。

 当事者が撮影しているが故に主観的な視線を獲得したこの映画は、破壊行為に対し決然と立ち向かう一方で呆然としながらただカメラを回すしかない無力感すらも浮き彫りにして行きます。この映画が強いのは、ギリギリのところで折れてはいないという点でしょう。この映画が誕生したこと自体が国境を超えた連帯の結実とも言え、そこに一筋の希望が見出せます。

 まさにジャーナリズムの矜持を感じさせるこの映画は各地で絶賛され、ベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞をW受賞しただけでなく、先日アメリカでアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得しました。特にアカデミー賞での受賞は私としては正直意外で、トランプ政権発足後パレスチナへの人道支援の中止を決定するなどイスラエルへの支持を打ち出した政府の方針に異を唱えるような姿勢を見せる気骨が今のハリウッドにあるとはちょっと思っていなかったからです。

 観ていて苦しくなるような作品ですが、それでも向き合うべきものがある力作。
 当のイスラエルでは政府主導の上映中止運動が起こるほど、今渦中にいる一本です。これが普通に観られるということはまだそれに触れられる自由があるという事。祈りと決死の覚悟が宿ったこの映画が、1人でも多くの方の目に留まりますように。

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