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ちゅうカラぶろぐ


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昨日の歌会に参加された皆さん、お疲れ様でした。
 ここ数回欠席だったり途中で早抜けしないといけなかったりで、最後までフル参加できたのがしばらくぶりでしたがやはり楽しい。かなりテキトーなリクエストにちゃんと応えてもらったりして嬉しいようなちょっと申し訳ないような気持ちに(笑)。

 こんばんは、小島@監督です。
 コロナ禍を経てから尚更実感するのですが、お腹から声を出す機会は定期的に作っておかないとね!

 さて、今回の映画は「風が吹くとき」です。

 イギリスの片田舎で暮らすジム(吹替・森繁久彌)とヒルダ(吹替・加藤治子)の夫婦。二度の大戦をくぐり抜け、子供を育て上げ老境に差し掛かった今は静かに余生を送っていた。ある日ラジオから新たな世界大戦が勃発し、核爆弾が発射される恐れがあると報じられる。ジムは配布された政府のパンフレットに従い家にあるものを使ってシェルターを作り始める。
 果たしてその時はやって来た。核爆弾が炸裂し、強い閃光と激しい爆風が全てを焼き尽くしてゆく。どうにか爆発を生き延びた2人は、国からの救援を信じてパンフレットに従いシェルターでの生活を始めるが。

 原作は「スノーマン」「さむがりやのサンタ」で知られるレイモンド・ブリッグズが1982年に発表したイラストブック。それを日系アメリカ人2世であるジミー・T・ムラカミの脚色・監督によって1986年にアニメ映画化されたのが今作です。実写映像を織り交ぜたり模型やタイポグラフィを使ったカットを挿入したり挑戦的な手法を取りながらも抑制の効いた語り口で映画を作り上げたアニメーション作家ジミー・T・ムラカミは1989年にロングシリーズとなる「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」を手掛けて名を知られた人物で、アイルランドのディングル国際映画祭には彼の功績を湛えてアニメーション業界に貢献者に送られる賞が設けられ、彼の名を冠してムラカミ賞と呼ばれています。「風が吹くとき」は翌年には日本でも公開され、吹替版の製作には「戦場のメリークリスマス」で知られる大島渚が演出を担いました。主演した森繁久彌、加藤治子はともに戦前から演劇経験とキャリアがある当時既に重鎮と呼べる人物であり、朴訥に見える中に奥深さを感じる演技を聞かせてくれます。

 物語はほぼジムとヒルダの2人しか登場せず、イギリス流のユーモアを交えた会話が全編にわたり続くものの、事態はそんな楽観的な2人を嘲笑うかのように静かにかつ確実に深刻の一途を辿っていきます。そんな2人が核爆弾炸裂後の世界で生活の頼りとする政府発行のパンフレット、その記述に沿って2人は生きていこうとするのですが、家の扉を外して壁に立てかけクッションを敷き詰めて簡易シェルターを作ったり、窓を白いペンキで塗り込んだり、どう考えてもそれが核爆弾や放射線に対し何か効果があるとは思えません。しかしそれを基に何日か生きられれば国が救助を派遣してくれると2人は信じています。先の大戦の苦しかった日々も2人にとっては懐かしい勝利体験であり、今回もイギリスの勝利を信じて疑いません。もはや勝者などいない状況になっているにも関わらず。
 そのイノセントさこそが残酷極まりないのです。更に恐ろしいのは悪い冗談かブラックな風刺にしか見えないそのパンフレット、なんと実在した代物です。それも発行は1976年。核保有国が開発競争に明け暮れた時期に国内に配布していたガイドブックがこの体たらくとは。被爆国であった日本では写真はもちろん絵画、詩、文学、マンガなどの創作物にその惨状やその後の影響を伝えるものが多く作られ人口に膾炙したのとは対照的です。
 
 穏やかで、それでいて冷徹かつ残酷なこの映画は公開から37年を経てなお鮮烈に観る者に訴えかけるパワーを持つ作品であり、もたらす余韻は重く長く、打ち鳴らす警鐘は今も静まりません。まだ観たことが無いのであればどうか一度ご覧になってみてください。「一生に一度は絶対に観るべき」、これはそんな類の作品です。一度でじゅうぶんです。二度目を観る度胸は今のところ私には無いです。

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