ちゅうカラぶろぐ


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昨日の歌会に参加された皆さん、お疲れ様でした!
実に1年ぶりというブランクに、慣らし運転のような感じで行こうかと思っていたらそんなに甘くなかったというか、あんなにがっつり歌い込むことになろうとは。ハードなリハビリだぜ(笑)

 こんばんは、小島@監督です。
 とは言え今度こそ以前の様な定期開催ができる日々が戻って来て欲しいですね。もちろん私も来月も行く気満々ですよ。

 さて、今回の映画は「ほの蒼き瞳」です。

 1830年冬、ニューヨーク州ウエストポイントの陸軍士官学校で一人の士官候補生が遺体となって発見された。心臓がくりぬかれたその異様な遺体の噂が広まることで学校の体面に傷が付くことを恐れた士官学校の幹部たちは、引退して隠棲していた地元の元刑事オーガスタス・ランドー(クリスチャン・ベール)に秘かにコンタクトを取り、事件の調査を依頼する。調査を進める中でランドーは詩をこよなく愛する風変わりな士官候補生エドガー・アラン・ポー(ハリー・メリング)と出会い、捜査の協力を求めるが。

 「ファーナス 訣別の朝」など硬派なクライム・ドラマを得意とする監督スコット・クーパーと名優クリスチャン・ベール、これで3度目のタッグとなる今作はルイス・ベイヤードの出世作となった「陸軍士官学校の死」を原作にした、実在の人物も織り交ぜながら展開するノワール・サスペンス映画です。雪の降り積もる冬、闇夜と霧が立ち込めどこかモノトーンの陰鬱で静謐な画面とともに重厚な物語が綴られます。
 昨年12月に一部劇場で先行公開されたのち、現在はNetflixで配信されています。公開時にタイミングを掴めず今回配信で観ましたが、こちらも慣れてきてしまっているとは言えこのクラスの作品でも劇場公開より配信が基本フォーマットという昨今の潮流には驚きを禁じ得ませんね。

 今作でのクリスチャン・ベールは引退した元刑事ランドー、更には妻とは死別し一人娘も失踪していなくなってしまい失意と厭世の日々を送る人物です。ただそこはクリスチャン・ベール、当然只者ではありません。くたびれきった風貌ながら、刑事としての力量は確か。しかしそれ以上に闇も抱えている人物を強烈な説得力を以って演じています。
 そんなランドーとコンビを組むことになるのはエドガー・アラン・ポー。言わずと知れたゴシックとホラー、そして推理小説の先駆的人物です。残っている写真を見ると細面なので体が弱いような印象を受けていましたが、実際は陸軍士官学校に在籍していた(ただし規則違反で退学になってる)ことを思えば虚弱体質などではなかったに違いありません。この映画でもポーは繊細な心情の持ち主でありつつも割とタフな一面が描かれたりしており、ランドーとポー、凸凹というには緊張感のあるコンビが物語を牽引します。ポーを演じるハリー・メリングの演技も素晴らしく、クリスチャン・ベールとのハイレベルな演技のぶつかり合いはこの映画を形作る重要なファクターです。
 ところでポーの晩年に近い時期の著作に「ランダーの別荘」という作品があり、今作の主人公もランドー(訳し方の違いだけで綴りは同じ)という名ですし、探せばポーの著作に因んだ小ネタがもっと忍んでいるかもしれません。

 非常によく練られたミステリーで、物語は最後まで予断を許しません。最後に訪れる結末の苦い余韻はなかなかです。渋みのある作品を味わいたい時には打ってつけです。ただやっぱりこういう作品はスクリーンで観たいですね。自宅だとどうしても邪魔が入ったりしますし。

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なにぶん不調の源がメンタルなので、復職したとはいえ良くなってるかどうかの感覚がイマイチ分からなかったのですが、思いがけないところで調子が戻りつつあることの実感を掴めました。
 読書ができるようになってきたのです。ここ数か月まともに「本を読む」ことができず、文章を読んでいてもただ文字の流れを目で追っているだけで内容がまるで頭に入ってこなかったのですが、ようやく「読める」ようになってきました。まだ調子良かった時ほどのスピードでとはいかないものの、やっと小説を楽しめる感覚が戻ってきて嬉しい限り。

 こんばんは、小島@監督です。
 このままいろいろ順調に戻ってくると良いのですが。

 さて、今回の映画は「SHE SAID その名を暴け」です。

 2017年、ニューヨークタイムズの調査報道記者ジョディ(ゾーイ・カザン)は、ハリウッド女優のローズ・マッゴーワンが著名な映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインから性暴力を受けたという情報を掴み、彼女へのインタビューを開始した。しかし、マッゴーワンは事実を認めるもののキャリアへの悪影響を恐れて記事に実名を出すことは拒否された。
 ジョディは産休から復帰したミーガン(キャリー・マリガン)と共にワインスタインの過去を調べ始める。数十年に及ぶワインスタインの性暴力についての情報を掴む2人だが、示談で被害者に金銭を掴ませるとともに秘密保持条項を結ばせることで沈黙を強いるワインスタインの方策と、それを長年許してきた業界の隠蔽構造に調査は難航する。

 2017年にニューヨークタイムズが発表し、社会現象を巻き起こしたと言っていい一つの記事。「恋におちたシェイクスピア」や「ロード・オブ・ザ・リング」などをプロデュースし、映画製作会社「ミラマックス」を成功させたハリウッドの重鎮ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力を告発したその記事は映画業界を超えて性犯罪の被害の告白を促し、いわゆる「♯MeToo運動」を加速させることへと繋がりました。その調査報道を手掛けたジャーナリスト、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの2人が如何にして記事を書き上げるに至ったかを描き上げるノンフィクション・ドラマです。
 その出自、その内容からして映画化するのは必然とも言える題材に挑んだのはユダヤ教超正統派コミュニティから脱出した女性を描いたNetflixのミニシリーズ「アンオーソドックス」で高い評価を得たマリア・シュラーダー。題材が題材なだけに主要スタッフの大半を女性が占めているのも大きな特徴でしょう。また、ブラッド・ピットが製作の一人に名を連ねています。彼が率いる「プランBエンターテインメント」は「それでも夜は明ける」「マネー・ショート」など実話ベースの映画化に定評があるプロダクションで、この題材を見出すのもある意味必然と言えますね。

 センセーショナルとは言えデリケートそのものの題材に、極めて真摯に繊細にアプローチされた作品です。物語は過剰にドラマチックにはならず、基本は2人のジャーナリストの地道な証拠集めが物語の大半を占めます。一見淡々とすら映る展開ですが、それがむしろスパイもののような緊張感を作り上げています。
 性暴力についての物語ではありますが、直接的な描写は一切登場しません。この映画は理不尽な暴力に声を上げた女性の勇気をこそ讃えるべきものであり、そんなシーンを直接描くことに意味は無いと作り手側が悉知している様が伺えます。作中には敢えて実名どころか自身が本人役で出演している方もおり、その勇気には敬服の念を抱かずにはおきません。ただ「証拠」となるテープの音声の一つが作中そのまま登場します。それだけでも充分事態の醜悪さは分かるはずです。

 やがて2人はただワインスタインのみではなく、秘密保持条項付きの示談、それを認める法律、それによりかかる業界の隠蔽体質など被害者に沈黙を強いるシステムにこそ悪の根源を見出します。このシステムの中では女性が必ずしも女性の味方をするとは限りません。ワインスタインに与する者たちの中には女性もいるという根深さ。
 興味深いのは、ワインスタインだけでなく、作中でもわずかに触れられるFOXテレビのCEOロジャー・エイルズと人気司会者のビル・オライリーがセクハラで告発され失脚した事件(これはこれで「スキャンダル」というタイトルで映画化されている)も共にトランプ氏の大統領選挙当選が発端になっている点です。ミソジニーとマッチョイズムの根深さが顕在化し時代が揺り戻しされると女性の意識にある種の危機感をもたらしたのでしょうか。

 2人のジャーナリストの奮闘による小さな流れはやがて暴流となって社会を突き動かすに至りました。ハリウッド映画では現在、性的なシーンの撮影をサポートするインティマシー・コーディネーターの導入が必須となったのもその一つ。一方で保守層が強い州では人工中絶を求めるデモが今も行われている事も地続きです。これは決して終わった話を回顧するのではなく現在進行形の事象をつまびらかにした作品と言えるでしょう。「今」だからこそ見るべき価値のある作品です。
 しかし、こういう調査報道をテーマにした作品は昔からハリウッドの王道の一つとも言えますが、日本ではほとんどそれが作られない寂しさもまるで合わせ鏡のように突き付けられてきます。いや、それ自体が日本の問題をある意味浮き彫りにしているかもしれませんが。

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昨日開催された「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 9thLIVE ChoruSp@rkle!!」を配信で鑑賞。これまで未披露のソロ曲を中心にしつつ、ユニット曲も従来とは一味変えたリミックスで楽しませてくれるパワフルなステージを堪能。10周年を目前に、大きな弾みとなるイベントでした。終わりには久しぶりのツアー開催も発表。初日は4月ともうすぐそこ。10月にはTVアニメもスタートと、メモリアルイヤーは盛りだくさんです。

 こんばんは、小島@監督です。
 実は未だにミリオンライブだけ単独公演を現地で観た事が無いままここまで来てしまいました。10thツアーには名古屋公演もありますし、今度こそ現地勢したいですね。

 さて、今回の映画は「銀河英雄伝説わが征くは星の大海」「新たなる戦いの序曲(オーヴァチュア)」4Kリマスター版です。

 遠い未来、銀河系に進出した人類は、皇室と貴族が支配する専制国家である「銀河帝国」と共和制を標榜する「自由惑星同盟」に二分され150年に渡る戦いが続いていた。
 宇宙暦795年帝国暦486年、「第四次ティアマト会戦」と呼ばれる戦役が勃発した。慢性化した戦いの一つに過ぎないと思われたその戦役は後の歴史において重要な意味を持つことになる。帝国軍の若く野心的な大将ラインハルト・フォン・ミューゼル(声・堀川亮)、帝国軍の作戦参謀ヤン・ウェンリー(声・富山敬)、二人の天才軍略家の運命が、初めて交錯する瞬間であった。

 田中芳樹による長篇スペースオペラ小説「銀河英雄伝説」、その発刊40周年を記念して1988年にスタートし、10年以上かけて本伝110話外伝52話を描き上げたロングシリーズの劇場版2作品、プロローグである「わが征くは星の大海」と本伝1~2話で描かれた「アスターテ会戦」を新たなエピソードを織り交ぜて劇場用作品として再アニメ化した「新たなる戦いの序曲」を4Kリマスター化したものが公開されています。
 コロナ禍で外出規制されたり職場から休業指示が出ていた頃、ちょうどAmazonプライムで配信されていたので数か月かけて全話完走しましたが、自宅で観たときはほとんどiPadでしたしせっかくスクリーンで観られるのならと2週連続で観に行ってきました。

 文語体のダイアローグ、マーラーやラヴェルなどクラシックを基調に構成されたBGM、さながら古典劇のようで今観ても実に重厚かつ品格に溢れた画面をスクリーンで楽しめるのはそれだけで意味があると思いますが、今作何より特筆に値するのは4Kへのリマスターの丁寧さでしょう。「新たなる戦いの序曲」を監督した清水恵蔵が監修を行いオリジナルネガを原版として、全てをクリアにして高精細な画面にできることが技術的に可能であるにもかかわらず、昔のセルアニメは何もかも綺麗にすると却ってのっぺりした画面に見えることもあるからか時にはほこりもそのまま残してある(だから宇宙船が動くとともにほこりが横にスライドしていくように見えるショットもある)など敢えてフィルムの質感を重視した画面作りを行ったことで、4Kリマスターでありながら35㎜フィルムの映像を観ているような気分を覚えたほどです。

 音声についても同様で、技術的には上映用素材をベースに疑似的な5.1chサウンドを構築するのも可能だそうなのですが、今回は敢えて当時音響監督を務めた明田川進監修のもと、三十数年前の音声と効果音のテープ素材をすべて集めて(なんとNGテイクまで含めて全て保管されていたそう)1から5.1chに組み直したそうです。その甲斐あって「わが往くは星の大海」のクライマックス、ラヴェルの「ボレロ」が流れる中で展開する第四次ティアマト会戦の一連のシーンや「新たなる戦いの序曲」でのヤンが旧友ラップとジェシカのプロポーズを見守るシーンなど、音楽の効果が強いシーンが見事な仕上がりを見せています。
 映像のオリジナルネガもそうですが、音声素材もが30年以上の時を経ても使える状態で保管されいた事、また当時を知るスタッフが健在でいた事、全てが揃っていないとこれはできない。2018年からよりモダンに再アニメ化されたシリーズ「Die Neue These」が製作されていることも追い風になった事でしょう。作品自体が現在まで生き残っていることも含めて多くの幸運に支えられている作品だなと思います。

 4Kリマスターってただ高精細にするだけじゃなくこういうこともできるのかと、ちょっと印象が変わりました。こういう形で旧作と新たに出会える機会があるというのは嬉しいですね。
 しかし今年は年初から旧作ばかり見ている気がする。新作も観ないとな~(笑)

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昨年公開されるや絶賛を浴び、現在も上映中のインド映画「RRR」のドルビーシネマ版の上映が今月20日から開始されるそうです。コレの何が面白いって、本国インドにはまだドルビーシネマに対応した映画館が無いにもかかわらず、アメリカで体感したドルビーシネマの迫力に憧れたラージャマウリ監督がそれ用のバージョンを作っちゃったそうです。そんなノリと勢いで出来上がったドルビーシネマ版、ただでさえ面白い映画がどのように変わるのか楽しみです。

 こんばんは、小島@監督です。
 ただ問題は3時間の長尺故にタイミングを掴めるかどうかってところですね~

 さて、今回は久しぶりに映画館探訪記。前にこのネタ書いたのいつだっけ?と思って過去ログ調べてみたら2018年。実に5年ぶり!
 年明け、大須へ行ってきました。自分のようにまだ正月休みの最中だった人と、もう仕事が始まってる人が行き交いごった返す商店街の通りからほんのちょっぴり外れたところ、万松寺の裏手あたり、「まんだらけ」からもほど近いところにそれはあります。

「大須シネマ」です。
 開館は2019年。戦前には20館以上、戦後も昭和30年代の最盛期には14館あったという大須の映画館。ですが最後の1館が1988年に閉館して以降、今では全て無くなってしまった常設映画館の復活を模索した方たちがNPO法人を設立、クラウドファンディングからの寄付や賛助会員の援助を得てオープンしました。
 ところが翌年にコロナ禍を受けてオープンから僅か1年で休館を余儀なくされます。2020年7月、NPO法人の解散と共に副支配人が代表を務めるデザイン会社「大丸」(デパートとは無関係)が運営を引き継ぎ同年8月に再オープンし現在に至ります。


 待合室のロビーと場内の様子。基本は旧作を上映する、いわゆる「名画座」ですが日によってはeスポーツのイベントなども行う貸しホールとしても機能しています。
 座席数は42席。写真ではちょっと分かりにくいかもしれませんが、スクリーンが少々高いところに設えられており最前列や2列目からだと自分が思うよりも高い位置を見上げることになるかしれません。


 この日上映されていたのは「ゼイラム」を含めて3本。私が観たのは「ゼイラム」のみ。1991年の作品で、監督は後に「牙狼(GARO)」シリーズを手掛けることになる雨宮慶太。彼にとっては初の劇場公開作品でもあります。低予算作品ながらストップモーション・アニメやオプチカル合成などの特撮がふんだんに取り入れられたほか、当時としては珍しくCGも積極的に採用されました。また、造形作家・竹谷隆之によるゼイラムのデザインも高く評価されています。好評を博し1994年には続編が公開されたほか、OVA「イ・リ・ア」としてアニメ化もされています。技術的に過渡期にあった時期の特撮やVFXの様相を良く表した作品と言えるでしょう。ずいぶん昔にレンタルで観たっきりの作品で、細かいところはだいぶ忘れていましたが、今観るとどうしてもB級くささが拭えない部分を差し引いても当時のクリエイティブな仕事ぶりが見事でなかなかに楽しめる逸品でした。
 ところで写真にあるこの整理券、そのまま次回上映以降1週間は割引券として使えます。

 出だしから大きな障害にぶつかった映画館ではありますが、このまま他のミニシアターとは独自路線を歩んで定着して行ってほしいですね。私も今後も足を運んでいけたらなと思っています。

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皆さん、明けましておめでとうございます!本年も宜しくお願い致します。
 年末、仕事納めのあとサウナへ。休職中やその前後、幾人かの方から薦められていたものの行かずじまいになっていたのを丁度いいしとこの機会にと行ってきました。良く言う「ととのう」とかはイマイチ分からないのですが、サウナ→水風呂→休憩のムーブを3セットも決めればそりゃ指先までホカホカして気分が良い。その日の晩も睡眠導入剤を使うことなく長時間ぐっすり眠れたのでなるほどもっと早くからやってみても良かったかなと思いましたね。
 
 こんばんは、小島@監督です。
 サウナ、これからもちょいちょい機会を見つけて行った方が良いかもしれない。

 さて、今年最初の映画は「かがみの孤城」です。

 中学生のこころ(声・當真あみ)は学校での居場所を失くし、自室に引きこもる日々が続いていた。ある日、突然部屋の鏡が光り出した。こころは吸い込まれるように鏡に触れるとその中に吸い込まれ、気が付くと大きな孤城の前に居た。城には自分と同じような状況の6人の中学生が。さらに狼の仮面をかぶった「オオカミさま」(声・芦田愛菜)という少女が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。
 期限は1年間。戸惑いながらもこころたちの奇妙な日々が始まる。

 「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国」「アッパレ!戦国大合戦」の2作品で大きな話題を集めて後、「河童のクゥと夏休み」「カラフル」など海外でも高い評価を得る原恵一監督の最新作がお正月映画の一つとして公開されました。原作も近年「朝が来る」「ハケンアニメ!」と映像化が相次ぐ辻村深月。かなり「強い」布陣と言えるでしょう。
 
 実に原恵一らしい登場人物の心情に寄り添った繊細でリリカルなテリングが活きた作品です。
 ファンタジックな設定と物語であるにもかかわらず、地に足が付き、また決して大仰には進んでいかず、物語に潜む謎よりもむしろこころたちの「生きづらさ」やそれにどうにか向き合おうとする葛藤の方に強くフォーカスされているのが特徴です。寄りにも寄って眼鏡をかけた少年が謎解きの代名詞みたいな声で喋る上にひとネタキメてくれるキャラクターもいたりしますがそこはそれ(笑)
 アニメ映画としていくらかデフォルメされたものになっていますが、こころたちが受けるいじめの描写がかなり容赦が無く、現在それに直面している方、あるいはかつてそうだった方にはかきむしられるような思いをする方もいるかもしれません。ですがただ露悪的にそういうものを描き出すのではなくその先に大きな希望が待っているのでどうか少しだけ踏みとどまって欲しいですね。

 原作がジュブナイル小説ということで、作中に用意された謎や伏線もそれほど難しいものではなく聡い人なら中盤くらいで気づいてしまうかもしれないのですが、だからと言ってカタルシスが削がれることは無いところに作劇の巧さが光ります。終盤のダイナミックな伏線回収のスピード感は見事としか言いようが無く、正直鳥肌が立つほどでした。
 エンドクレジットにもある趣向が施されているのですが、これがもう反則と言っていいレベルで思わず落涙。

 この作品で自分の中の何かが救われた気持ちになる方も、あるいは一生の宝物になる方もいるかもしれません。実に気持ちの良い作品でした。私、自身を持ってお薦めします。是非多くの方にこの映画をご覧になって頂きたいですね。

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今年は自分のメンタルが遂に限界に来て1ヵ月休職したのが何よりのトピック。来年は心身共に健康でいたい。

 こんばんは、小島@監督です。

 さて、今年最後の更新となる今回は恒例の、「今年の5本」と題して今年の映画を振り返ります。
例年同様現在の鑑賞可能状況も記載しますので参考になれば幸いです。

1.トップガン・マーヴェリック
 今年は洋画・邦画ともに豊作に感じられた1年でした。甲乙つけがたい名作だらけの中で1本だけ選ぶならこれ。名優トム・クルーズの孤高とも言うべき矜持と覚悟がスクリーンを疾走します。既にBlu-rayとDVDもリリースされ配信も始まっていますが、わずかながら現在でも劇場で上映が続いています。

2.RRR
 ナートゥをご存じか?圧倒的インド。観るエナドリ。何もかもが爆盛の超絶エンターテインメント。ただ全力で鑑賞するのだ!現在ロングラン公開中。版権の問題なのかインド映画はソフト化が他と比べると遅い傾向にあるため興味ある方は是非とも上映中に機会を掴まえて欲しいですね。

3.ハケンアニメ!
 邦画なら今年はこれが随一でした。アニメ創作現場の葛藤を熱量たっぷりに描くお仕事エンターテインメント。背中を押される気分になる方もきっと多いはず。Blu-ray/DVD/各種配信発売中。

4.スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
 少年の青春の終わりに、3人のスパイダーマンが集結する。煮え切らないままに完結させられた過去のシリーズも全て肯定し、新たな一歩を描いてみせた奇跡のような1本。正直今年正月にこれを観たときはいきなり今年のトップが来たかと思いましたが、まさかそれを上回る作品がこんなにポンポン現れようとは想像以上です。Blu-ray/DVD/各種配信発売中。

5.THE FIRST SLAM DUNK
 原作者井上雄彦自らが監督する新たなる「SLAM DUNK」、精密を極める音響と空間設計がもたらすバスケットボールのリアリズムに酔いしれる凄み溢れるアニメ映画になりました。現在公開中。好評を得てロングランになりそうです。

 5本選ぶならこんな感じ。今年はコロナ禍の鬱憤を晴らすかのように傑作が数多く上映される年になりました。また、配信が鑑賞のフォーマットとして定着しつつある中で、「映画館で鑑賞する」ことの意味を強く持つ作品が続々と登場するようになったのも大きいですね。
 さて、ここからはそれ以外にも印象に残った作品を振り返ります。こちらは鑑賞順に列記していきます。

・チック、チック…ブーン!
 アンドリュー・ガーフィールドがミュージカル「RENT」を生み出した夭折の作家ジョナサン・ラーソンの半生を演じるミュージカル。成功を夢見ながらも上手くいかず時間だけが過ぎていく青年の葛藤を誠実かつダイナミックに描きます。私は劇場上映で鑑賞しましたが実は上映の方が限定的で基本フォーマットはNetflix。
・ウェスト・サイド・ストーリー
 巨匠スティーブン・スピルバーグの手によるブロードウェイ・ミュージカルの定番の映画化。計算され尽くした映像の凄みに圧倒される。Blu-ray/DVD/各種配信発売中。
・ザ・バットマン
 「バットマン」の最新作は「DC」の「D」は「ディテクティブ(探偵)」の「D」、というのを思い出させてくれる逸品。しかしDC映画は最近迷走が激しくてこの先どこへ行ってしまうのか。Blu-ray/DVD/各種配信発売中。
・ハッチングー孵化‐
 フィンランド発の奇妙なホラー。少女の秘密が幸福な家族の仮面をはぎ取っていく。かなりエグイが忘れ難い印象を残す1本。DVD発売中。
・シン・ウルトラマン
 庵野秀明・樋口真嗣のコンビが送る新たなるウルトラマン。徹底して空想科学テイストを前面に押し出した画作りが良くも悪くも鮮烈。Amazonプライムにて配信中。Blu-ray/DVDは2023年4月12日発売予定。
・メタモルフォーゼの縁側
 17歳の女子高生と75歳のおばあちゃんがBLコミックを通じて交流する異色のドラマ。繊細な心の機微を美しい映像と演技で見せてくれます。Blu-ray/DVD/各種配信発売中。
・神々の山嶺
 夢枕獏の小説を原作に、何とフランスでアニメ化。切り詰めたタイトな構成で登頂に挑む男の心情を描き出します。ソフト化はまだ先のようですがAmazonプライムにて2023年1月6日より配信開始予定。
・ONE PIECE FILM RED
 劇場版ワンピースの新機軸。それにしてもヒロインのウタが連日年末の歌番組を席巻するようになろうとは。8月封切作品ながら現在も上映が続いています。
・NOPE/ノープ
 ジョーダン・ピール監督が描く「最悪の奇跡」とは。様々なオマージュやリスペクトも感じられるユニークなスリラー。配信発売中。Blu-ray/DVDは2023年1月6日発売予定。
・ブレット・トレイン
 東京発京都行の高速鉄道の中で殺し屋たちのバトルロワイアルが始まる。ブラッド・ピットを始めとした一級の名優たちが全力でB級を作りにかかっている悪ノリが楽しい。Blu-ray/DVD/各種配信発売中。
・サバカン/SABAKAN
 1980年代の長崎を舞台に、少年のひと夏の冒険を描く佳作。心地良い涼風のような作品だ。不定期に上映が続いているほか、ソフトについては草彅剛・稲垣吾郎・香取慎吾3人のユニット「新しい地図」のオフィシャル通販にて受注販売されています。
・ロード・オブ・ザ・リング三部作
 映画自体は2002~2004年の作品ですが、今年4Kリマスター・IMAXフォーマットで再上映されました。映画そのものが持つパワーをようやく余すことなく上映できるようになったのだなと思わされる映画体験でした。
・ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
 1本の映画の全てを懸けて語られる、若くして世を去った俳優チャドウィック・ボーズマンへ向けた哀悼の言葉。こういう作りが許されるほどの喪失感の大きさを作り手も受け手も共有しているというのは他では得難い経験でした。現在公開中。
・すずめの戸締まり
 新海誠監督の最新作は、初めて現実の災害である東日本大震災を正面から描くものになりました。前作「天気の子」よりは尖った部分が少なくなりましたが、その分作品の軸足はしっかりしたものになったように感じられます。現在公開中。
・窓辺にて
 国際的にも評価を高めつつある今泉力哉監督の最新作は同氏らしい等身大の恋愛模様を独特のリズムの会話で綴る会話劇。起伏も少なく145分と長尺なのにそれで退屈と感じさせない不思議な心地良さがある。現在公開中。
・犯罪都市THE ROUND UP
 冷酷非道な犯罪者に挑むのは、最強の男マ・ドンソク。自身のストロングポイントが良く分かってるマ・ドンソクの迷いの無い役者っぷりが楽しく、濃度と熱量の高いノワールを気持ちよく観ていられる。現在公開中。またBlu-ray/DVDは2023年4月5日発売予定。
・アバター/ウェイ・オブ・ウォーター
 映画の進化、そのそばにはいつもジェームズ・キャメロン。むしろ彼でなければ扱いきれないところまで来てしまっているのだろうか。現在公開中。この圧倒的な没入感は是非3Dで味わって頂きたい。
・時には昔の話を
 昨年没した俳優・森山周一郎の足跡を、生前収録された当人のインタビューを中心に構成したドキュメンタリー。TVドラマがまだ生放送で製作され、洋画や海外ドラマの吹替が勃興したTV黎明期から活躍し、やがて「刑事コジャック」という当たり役を掴み、遂に代名詞ともいうべき「紅の豚」に至る道のりを綴ります。チャーミングさとダンディズムに溢れた森山周一郎氏の言動に痺れながら、語られる数多くのトピックに好奇心を刺激される逸品。各地のミニシアターで不定期上映中。ただ今年の上映分は全て終了。ソフト化の予定も今のところ無いとか。

 改めて振り返ると今年は邦画を結構観ているなという印象。多分「ハケンアニメ!」の影響かも(笑)
 来年はどんな映画に出会えるでしょうか。

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昨日の放送で大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が最終回に。緩急自在の油断ならない三谷幸喜のシナリオに主演小栗旬を筆頭にした俳優陣の熱のこもった演技が合わさり、1年かけて積み上がっていく物語の起伏に翻弄される楽しさ味わわせてもらいました。

 こんばんは、小島@監督です。
 近年に無い盛り上がりを見せた後だけに来年の「どうする家康」のハードルが既に高いですが、そこも含めて楽しみにしていよう。

 さて、今回の映画は「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」です。

 地球から遠く離れた惑星「パンドラ」、元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は先住民ナヴィの女性ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と結ばれ、3人の子供をもうけ、また故・グレイス・オーガスティン博士(シガニー・ウィーバー)の遺児キリ(同じくシガニー・ウィーバー)を養女として迎え幸せな日々を過ごしていた。
 しかし、一度は去った地球人類はパンドラに再来しブリッジヘッドシティという新たな作戦基地を建設。ジェイク一家の生活は一変した。このままでは森の民オマティカヤ族の集落も危険にさらされると判断したジェイクは家族と共に森を去ることを決意。長い旅の末に族長トノワリ(クリフ・カーティス)が統べる海の部族メトケイナ族の集落に身を寄せることになる。

 VFXや撮影、上映に至る映画にまつわる様々な機材や技術の進歩、その最先端にはいつも彼がいるような気がする映画監督ことジェームズ・キャメロン。その最新作にして「アバター」13年ぶりの続編が登場です。2009年に公開された前作も3D映画が一気に普及するほど驚異の映像世界を見せつけてくれましたが、それから十数年の進歩をこれでもかというスケールで見せつけてくれます。せっかくならばとIMAX3Dバージョンで観ましたが、色調の限界に迫るような鮮やかな海洋の表現はもちろん3Dで見せる被写界深度の深さは他の追随を許さないものがあり、3D映画は今年数本鑑賞していますが迫力が頭抜けています。また、一部劇場のみながら今作はハイフレームレート上映(通常の秒間24コマではなく秒間48コマで上映する方式)も行われています。以前この方式を採用していた「ホビット」3部作(2012~14年)では動きが滑らかになる代わりにショットの一つ一つにどこか妙な安っぽさが感じられましたが今作ではそれも無くなっており、ただひたすらに桁違いの情報量を持つ映像が全編に渡り展開します。

 確固たる映像世界を楽しんでもらうのが第一義にあるためか、物語は新鮮さというよりむしろどこか古き良き西部劇のような、古典的というかオーセンティックな印象。物語の中核が「逃げる者」と「追う者」であるところなどはジェームズ・キャメロン監督の代表作である「ターミネーターをほうふつとしますね。前作同様に環境問題への提起が入り込んでいるのも環境保護活動家でもある同氏のイズムの表れのようにも思えます。

 ただ、起承転結の「起」の部分だけで1時間も使うのはさすがに長すぎると言うか、ちょっとかったるさを感じていささか眠くなってしまいましたが(苦笑)。いやそりゃ192分と長大な上映時間にもなりますわ。上映時間の長さは良くも悪くもこの映画のネックで、うっかり通路前の席を取ってしまったばかりに上映中はトイレに立つ人が何度も私の前を横切る羽目に。うぅむ。
 第3作目となる続編が既に準備段階らしく、今作だけで言った場合に放りっぱなしになる謎や伏線もあるため、長い時間に見合った結末になっていないように感じる方もいるのではないでしょうか。

 それでもこの驚愕の映像美はスクリーンで観て十分すぎるくらいの対価をもたらしてくれるはず。是非その迫力を堪能して欲しいですね。鑑賞の前にはトイレに行くこともお忘れなく。

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